世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2728
世界経済評論IMPACT No.2728

最近の2050年長期見通しでは脱炭素化がさらに加速

福田佳之

((株)東レ経営研究所産業経済調査部長 チーフエコノミスト)

2022.10.31

 国際機関などの長期見通しをいくつか比較していて気付いた点がある。COP27の開催が間近に迫っているが,各国や企業においてカーボンニュートラルの取り組みが加速しており,これについてコロナ禍の影響をほとんど受けていない。長期見通しにおいてエネルギーや輸送等の分野で太陽光や風力など再エネの普及や電動化など脱炭素化の一層の進展を織り込んでいることだ。

 まず太陽光や風力など再生可能エネルギーについて今後2050年にかけて一層の普及が見込まれる。COP26以前の見通しに比べても普及ペースは加速している。ただ太陽光の方が設置ペースは速い。風力の場合,陸上だけでなく洋上においても適地制約等があって設置ペースが遅くなる一方,太陽光はパネル製造コスト低下のペースが著しいためだ。

自動車産業では電動化の進展で脱炭素化が前進

 自動車産業では電動化が進んでいる。なかでも世界主要国でバッテリーEVの販売が増えており,欧州や中国では新車販売の2割,米国でも1割弱まで増えてきている。各国の購入支援や環境規制も相まってバッテリーEVを中心に電動化が進み,少なくとも乗用車の大半はバッテリーEVが占めると予想されている。航空機産業も国際民間航空機関(ICAO)がこの10月に2050年のカーボンニュートラル達成という目標を採択しており,航空会社は植物や廃油などを原料とする持続可能な航空燃料(SAF)の導入拡大等による脱炭素化を図ることになる。

 もちろん,自動車や航空機の産業が脱炭素化を推進する上で,解決しなければならない課題がある。最大の課題は,原材料調達とサプライチェーンの確立である。これまでのバッテリーEVの普及は,同車に不可欠な車載電池のコスト低下によるところが大きい。しかし,さらなる普及は電池材料調達圧力となってコスト高を引き起こす。さらに人権や経済安全保障の観点で特定国への原材料依存は許されず,サプライチェーンの頑健性を増す必要がある。こうした状況はバッテリーEVの普及を妨げる恐れがある。航空機もSAFの安定的な調達については今後のサプライヤーの取り組み如何にかかっている。

鉄鋼などの産業の脱炭素化は依然として前途多難

 一方,鉄鋼などエネルギー集約的な産業の脱炭素化は,前途多難なままである。例えば,化石燃料の代替燃料として水素,とりわけ再エネ由来のグリーン水素に期待が寄せられている。グリーン水素を生み出す水電解装置は2020年時点において世界で1GW以下しかないが,IEAが2021年に発表した世界全体が2050年にネットゼロとなるNet Zero Emission(NZE)シナリオによると,その後水電解装置の増強が進み,2050年には3,600GW程度に達するとする。水素還元製鉄やカーボンリサイクル等での需要を当て込んでいることが大きい。一方,NZEシナリオにおいて水素生成で必要な再エネの普及ペース見通しは水電解装置の増強ペースをかなり下回る。この再エネの普及ペース見通しでは2050年カーボンニュートラル達成に必要な水素を充たすことはできないだろう。

プラスチック規制を巡る動きに注意

 長期見通しを考える上で気候変動問題以外にも影響を与える材料がある。その一つとしてサーキュラーエコノミー確立に向けた官民での取り組みが挙げられる。なかでも2024年に国連においてプラスチック汚染防止のための国際的な取り決めをまとめる動きがある。プラスチックは身の回りのいたるところにあって生活に欠かせないため,何らかの規制が導入されると社会に影響を与える恐れがある。実際,OECDはプラスチック規制の導入シナリオで再生プラスチックを含めた同市場全体の伸びが鈍化する見通しを示していることもあり,こうした官民での取り組みがどのような影響を及ぼすか注意する必要があろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2728.html)

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