世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
民主主義の危機は本物か?:中国の動向から考える
(岐阜聖徳学園大学 教授)
2022.10.17
ここ日本では夏から秋となりかなり過ごしやすくなってきた。ところで国際情勢に眼を転じると,プーチン・ロシアの暴虐性がいよいよ激しさを増す様相を呈しつつあるようだ。そうした事情はたいへん気になるところだが,もうひとつ注目すべき情報が日本経済新聞の紙面を賑わせていた。それは,世界の国ぐにの民主主義人口はついに3割を切ったという記事である。本コラムでは,この問題について考えてみたい。
それは裏を返せば,権威主義的な強権国家のほうに勢いがあるということを含意している。すぐにイメージされるところでは,ロシアと中国の存在がある。とくに中国の興隆がものを言っているのであろう。周知のようにこの国は人口が14億人であり,政治面では権威主義国家体制でありながら,経済面でかなりの実績を上げ続けている。2010年代半ばですでにGDPの規模は日本の3倍になった。内陸部の開発は依然遅れ気味であるとしても,国全体の経済規模は拡大し続けているのだ。習近平政権は,脱税など不正をともなう形で富裕になった者や公害をあからさまにしつつ肥大化した経済部門などに対しては強権的に罰則を科すことまでやってのけた。一種のデモンストレーション的な色彩が濃いかもしれないが,いくらか平準化をめざす姿勢があるようにも見える。全体的に国民の生活水準が増進しているので,多くの国民はかなり満足しているようなのだ。それは,筆者が大学院で中国人留学生にこのことを問い質して得られた印象でもある。
中国の国内事情とは別に,この国の国際政治経済面の行動に眼を転じてみよう。そこではこの国がスローガンとしている「一帯一路」戦略が第一に挙げられることに,異論の余地はあるまい。そして中国主導でアジアインフラ投資銀行(AIIB)も創設された。その基本政策はどこまでも拡張しようとしているように見える。いうまでもなく「一帯」とはユーラシア大陸全体を網羅するように高速鉄道でつなぎ,中国物産を流通させようとするものだ。それに対して「一路」とは,主に海路にて中国の主要港と海外の主要港とをつなごうとするものである。すなわちこの路線に添って,中国方式の対外援助が実施されているのである。
近頃ソロモン諸島への援助が問題化したばかりだが,これまでにラテンアメリカやアフリカでの援助活動もなにかと話題になった。これらの地域への中国方式の援助は主にインフラ建設であり,もとより港湾整備も重要項目に入る。そこには援助資金だけではなくて中国人労働力も投入される。EUや米国は人権や民主主義の色彩が希薄なところへの援助は控えがちだが,中国はそうではない。非民主的な国や地域への援助もお構いなしだ。そして援助と引き換えに当該国に賦存する燃料や鉱物資源を手に入れる。まさしく他の先進国では真似のできない援助方式である。その結果被援助国は中国に対して批判的立場をとりにくい。そのような事情も手伝って,民主主義はやや劣勢の様相を呈しているようだ。
かくして中国モデルは,国際開発のコンテクストでは開放経済型工業化戦略を採ることでかなりの成功を収め,対内的には強権性を帯びた権威主義国家であり,対外的には「一帯一路」戦略に整合的な中国式援助を実施するといった一種のシステマティックなやり方なのである。その意味において,従来からの欧米主導の既存の国際秩序に挑戦しているようにも見える。しかし次のことに留意すべきであろう。すなわちラテンアメリカやアフリカさらにはアジアの被援助国や地域によっては,対中借款を返済できないといった難局に陥ったところも少なからずあり,それは一種の不安定要因を蔵しているということでもある。
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