世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2685
世界経済評論IMPACT No.2685

10年の習近平経済政策(シコノミクス)を振り返る

岡本信広

(大東文化大学国際関係学部 教授)

2022.09.26

 10月の第20回党大会で習近平政権は10年を迎える。今後の中国の経済政策を占うためにも,ここで一度,10年にわたる習近平の経済政策を,Tang(2022)を参考に振り返っておく。

 シコノミクス(Xiconomics)は,2017年の「習近平思想」を中心とした中国経済運営の原則である。

(1)一帯一路(2013年9月)

 一帯一路構想は,古代の貿易路のつながりを復活させ,非西洋市場を開拓するために使われた後,アジア,ヨーロッパ,アフリカ,南米の60カ国以上で中国の影響力を拡大する野心的な戦略へと変化していった。

 この構想はインフラ接続を前提としていたが,アジアインフラ投資銀行,シルクロード基金,新開発銀行の設立により,貿易と投資にも拡大されている。

(2)改革(2013年11月)

 2013年11月の三中全会で発表された「改革の全面的深化における若干の重大問題に関する中共中央の決定」では,初めて市場が経済で「決定的」な役割を果たすと言及された。

 この「改革」の青写真に2020年までに達成すべき336の具体的な任務が詳述された。その中には,外資のネガティブリストの設定,財政改革,新規株式公開の登録制度,金融開放などが含まれており,市場開放型の改革が続くという意気込みが感じられた。

(3)「新常態」,供給サイドの構造改革(2015年)

 「新常態」は,経済拡大のペースよりも質を重視し,高度成長ではなく中成長段階に重点を置いた言葉である。GDP成長よりも,債務の増加,シャドーバンキングの横行,人口動態の課題といった問題への対処に集中した。産業の過剰生産能力への対応,不動産市場の規制,デレバレッジなど,供給サイドの構造調整を導入した。

(4)「より強く,より良く,より大きく」(做強做優做大)の国有企業(2016年)

 国有企業(SOE)は長い間,中国の社会主義市場経済の屋台骨であった。しかし,習近平はそれらをより大きく,より強くすることを公約した。2016年以降,北京が米国の貿易制裁に対抗し,パンデミックと戦うために,それの役割は強固なものとなっている。

 国有企業の重要性を強化することは,ネット企業の取り締まりと「共同富裕」戦略とともに,民間経済の将来に対する懸念を高めるものであった。

(5)「双循環」(2020年5月)

 この経済戦略は,内部循環と外部循環の両方に焦点を当てたものである。数十年にわたる中国の輸出志向の発展モデルからの転換を意味し,今後15年間の一連の新しい目標を設定したものである。この計画では,国内市場,すなわち内部循環をより重視し,不安定で敵対的な外部世界に対する中国の戦略的適応を図っている。

(6)「共同富裕」(2021年)

 中国は,次の発展段階における主要目標として,より公平な富の分配を求める「共同富裕」を追求する一方,その目標を支えるために経済成長を維持する必要性も強調している。

 目標は,所得分配を改革し,中産階級が中国の富の大部分を占めるようにすることである。この戦略では,成長の原動力として,過去数十年にわたって普及してきた資本集約的な投資よりも,草の根の消費に焦点が当てられている。

(7)ゼロコロナ戦略(2022年)

 オミクロン株と戦うために2022年の早い時期にゼロコロナ戦略を導入したことで,経済成長にかなりの打撃を与えた。

 厳しい検疫と隔離は,接触集約型のサービス業を直撃し,多くの中小企業を廃業に追い込み,家計収入,雇用市場,住宅ローン返済,消費に影響を及ぼす流れとなっている。

 以上,10年を振り返ると,シコノミクスは,経済に対する国家管理が強くなった時代であったと集約できよう。

[参考文献]
  • Tang, Frank (2022) ‘China economy: 7 ‘Xiconomic’ policies that have guided growth over the past decade’, South China Morning Post, 25 Aug, 2022
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2685.html)

関連記事

岡本信広

最新のコラム