世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3767
世界経済評論IMPACT No.3767

中国の民間部門は復活するか?

岡本信広

(大東文化大学国際関係学部 教授)

2025.03.24

 中国経済において,企業数でも雇用でも大部分を占める民間企業の業績が芳しくない。そもそも中国市場では民間企業の経営環境があまりよくないことが指摘されている。例えば,民間企業は国有企業が独占している市場,例えばインフラ事業などへのアクセスが制限されており,国有企業が優遇されていると認識されている。また,政府による不明瞭な規制やそれに伴う運用,恣意的な罰金や,不当な資産の差し押さえが発生し,民間企業は長期的な見通しが立たないと言われている。

 実際,調査でもこれらの課題は明確だ(Sun 2024)。独立系調査機関「北京大成」が2014年11月下旬に実施した調査によると,調査対象となった806社の民間企業(多くは中小企業)のうち,52.6%が民間部門は困難な状況にあると回答し,63.3%以上が損失または利益減少を経験したと回答したという。多くの企業は,高い操業コスト,支払いの遅延,過当競争,地方当局による行き過ぎた取り締まりなどを課題として挙げている。とくに地方当局の取り締まりについては,3分の1以上の回答者が中央政府に最も期待するものと指摘しており,「地方政府の行動は企業の信頼を著しく損なっており,中央政府がこのような慣行を抑制し,状況をできるだけ早く逆転させるための断固たる措置を講じることを期待する」と報告書はまとめている。

 中央政府も対策に動いている(Nulimaimaiti 2024)。2024年10月国家発展改革委員会は民間経済振興法の草案を公表した。主な内容は,公正な市場競争の促進,投資と融資環境の強化,科学プロジェクトと技術革新への参加の奨励,および経済的権利と利益の保護のための措置である。特に,草案は私有財産と個人の権利の保護,および刑事捜査の制限など,民間起業家の懸念に対処しようとしている。

 公正な市場競争という面では,国有企業のみの分野に民間企業が参入するケースも試験的に存在する(Chen 2025a)。浙江省の杭州-温州高速鉄道は,その先駆けとして注目された。しかし,開業から半年が経過しても赤字が続き,民間企業は運営に十分な影響力を持てずにいる。例えば,列車の運行スケジュール,乗車券販売,駅周辺の商業・住宅開発などの決定権を国有企業の中国鉄路が握っており,民間企業は収益性を確保するための自由な経営ができないという現状がある。

 さて,民間企業の経営環境を改善することが期待された民間経済振興の法案は,今月開催された全人代で可決はできたのだろうか?答えはノーだ。これには様々な見方がある(Chen 2025b)。まず,民間経済振興法は,広範囲にわたる複雑な内容を含んでいるため,慎重な審議が必要という意見があり,多くの関係部署からのフィードバックの反映などのため,さらなる調整が必要と判断されたと言われている。他には,法案の重要性が認識されていないのではという疑問もあるという。すなわち,全人代で可決されなかったことは,法案の優先順位が低いことを示唆しているからだ。

 この法案の行方は,外資系企業も含めて,中国の民間企業,中小企業や起業家の経営環境を左右するものになるだろう。

[参考文献]
  • Chen, Frank (2025a)‘Two sessions’ 2025: how can China get its private sector back on track?, South China Morning Post, 7 March 2025
  • Chen, Frank (2025b) Further tweaks expected to China’s draft private sector promotion law, South China Morning Post, 11 March 2025
  • Nulimaimaiti, Mia (2024) China moves to elevate and protect its private sector with new draft law, South China Morning Post, 11 October 2024
  • Sun, Luna (2024) China’s private firms, in dire straits, flag critical concerns in fresh survey findings, South China Morning Post, 6 December 2024
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3767.html)

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