世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3675
世界経済評論IMPACT No.3675

中国の少子化対策

岡本信広

(大東文化大学国際関係学部 教授)

2024.12.30

 2024年10月に国務院から少子化に対応した政策が発表された。「出産支援政策システムの改善を加速し,出産にやさしい社会の構築を促進するための若干の施策(関于加快完善生育支持政策体系推動建設生育友好型社会的若干措施)」と名付けられた政策は以下の内容となっている。

 六つの領域の出産支援:①出産休暇制度の改善,②出産手当などの制度の確立(3歳未満の乳幼児のケア,子供の教育,個人所得税の特別追加控除政策など),③生殖医療サービスの強化(出産医療サービスを保険対象とする),④保育サービスシステムの構築の強化,⑤住宅支援政策の強化,⑥出産にやさしい社会の雰囲気づくり,である。

 2002年公布の人口と計画生育法は2015年12月末に改定され,2016年1月に「一人っ子政策」が撤廃,すべての夫婦が2人目の子供をもつことが可能となった。その後2021年5月31日の党中央政治局会議で「出産政策を最適化し,人口の長期的に均衡のとれた推移を促す決定」が審議され,1組の夫婦に3人まで出産を認める政策を実施すると決定した(内藤・山田2022)。同年8月に人口と計画生育法が改定され,3人子政策が国家の政策としてスタートした。

 国務院が10月の政策を出すまで,各地方政府は,それぞれの工夫をこらし,出産奨励策を展開してきた。代表的なものを南華早報の報道からまとめてみよう。

  • 〈休暇制度(SCMP2022年1月1日)〉

  •   多くの省が,国の法律で定められた98日間の産休よりも長い期間を設けている。
  •   河南省と海南省では最大190日間,四川省,貴州省では158日間。父親の育休は安徽省と江西省では30日間。その他のほとんどの地域では15日間。浙江省では,子供の人数に応じて産休期間を段階的に増やしている。第1子は158日,第2子・第3子は188日だ。
  • 〈出産手当(SCMP2022年1月1日,8月13日)〉

  •   温州市龍湾区:2人目の子供がいる家庭に,3歳まで毎月500元/人を支給。3人目の子供がいる家庭には,1,000元/人を支給。
  •   四川省攀枝花市:2~3人目の子供がいる家庭に,3歳まで毎月500元/人を支給。
  •   湖南省長沙市:3人目の子供がいる家庭に,1万元の一時金を支給。
  •   甘粛省臨澤県:第2子の出生で年間5,000元,第3子で1万元を3歳まで支給。2~3人の子供がいる夫婦には4万元の住宅補助金。
  • 〈住宅購入補助(SCMP2022年8月13日)〉

  •   吉林省:子供を持つ夫婦に最大20万元の融資,子供の数に応じて金利を控除。
  •   江蘇省南通市:3人目の子供がいる家庭に,住宅購入時に1平方メートルあたり400元の補助金。
  •   江蘇省南京市:2人以上の子供がいる家庭は,もう1軒の不動産購入が可能になり,住宅ローン金利も優遇。
  •   浙江省寧波市:2人以上の子供がいる家庭に対し,住宅公積金からの初回住宅購入ローンの上限を60万元から80万元に引き上げ。
  • 〈その他の支援(SCMP2024年6月6日)〉

  •   上海市:不妊治療サービスを医療保険制度の対象とした。

 以上のように,今回国家が政策を定義したが,実際の政策の展開にあたっては,各地方の予算制約により,バラバラだ。あえて共通点を指摘すれば,1人あたり年間5000元(約10万)程度の出産手当,出産・育児休業の拡充,住宅購入補助である。これらの地域で実際に効果があったのかどうか,個別の検証が必要であろう。

[参考文献]
  • 内藤寛子・山田七絵(2022)「2021年の中国 3期目を見据えて社会への引き締め強化を図る習近平政権」『アジア動向年報2022年』
  • Sun, Luna (2022) China’s population crisis: 5 ways Beijing is trying to tackle a worryingly low birth rate, 1 January 2022
  • Liu, Ying Leona (2022) China population: district announces childcare allowance to help turn the tide on birth crisis, 13 August 2022
  • Zuo, Mandy (2024) Shanghai adds ART services to medical insurance scheme amid China’s population woes, 6 June 2024
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3675.html)

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