世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
インド太平洋協力とTICAD8への期待
(東北文化学園大学 名誉教授・国際貿易投資研究所 客員研究員)
2022.07.25
今年2月下旬に始まったロシアのウクライナ侵攻が続く5月24日,東京の首相官邸で「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)構想」に連携する日米印豪4ヵ国「クアッド」の対面首脳会合が開催された。インドからはモディ首相が出席し,中国の覇権主義とロシアを念頭に悲惨な戦争に反対し,インフラや人道支援・災害救援のパートナーシップに合意した。インドのFOIPやクアッドへの参加には日印関係が後押しした経緯があり,これを進めた安倍元首相がテロに倒れた訃報にモディ首相は国民とともに哀悼し,7月9日には全インドが半旗で服喪した。インドのマスコミも安倍元首相の功績を含めて大きく報道している。
インドがFOIPやクアッドに参加する背景
最近多用されるインド太平洋構想は,成長が続くアジア・太平洋地域に加えて今後の発展に期待がかかるインド洋圏,さらには中東・アフリカ地域を対象に,人権や法,国際ルールに基づく国際的な連携や協力を進める。21世紀に入ってパックス・アメリカーナを支えた米国の地位が低下する一方で躍進する中国の影響力が高まる。特に,中国の影響力は「一帯一路(BRI)」巨大経済圏戦略でインド太平洋地域において拡大し,国際ルールや秩序を乱している懸念や脅威があることから,これに対抗する背景がある。では,非同盟主義を遵守してきたインドがインド太平洋構想を受け入れクアッドに連携するのはなぜか。
BRI戦略は海外沿線国のインフラ建設に中国が投融資するもので,多くの場合に利便性や連結性は高まるものの協力内容が透明性を欠き,相手国が債務問題の発生や政情不安に陥る懸念がある。インドは周辺近隣国を近隣ファースト政策で優先的な配慮をしているが,パキスタンには係争地を通過する道路建設を始め多額のインフラ建設融資が行われ,最近債務問題が伝えられる。スリランカでは債務問題に加えてウクライナ戦争の影響で穀物や燃料価格が高騰し政情不安に見舞われている。ネパールにはチベットからの鉄道延伸計画があり,ブータンやインド北東部では中国からの道路建設の脅威に晒されている。
インドは,中国と4,000㎞に及ぶ国境を接し紛争経験や未確定地を抱えている上に,上記のような周辺国の状況を懸念し,融資の一部を担うアジアインフラ投資銀行(AIIB)からは融資は受けているものの透明性を欠くBRI戦略は認めず警戒している。加えて,中国との貿易は大幅な入超が続き国民の反発や輸入制限の動きがあり,また域内貿易拡大に期待のかかるRCEP交渉では中国有利の懸念から参加を保留するといった警戒感が根強い。これらの要因が重なり中国を警戒・対抗する中で,日印関係の拡大を受けてインド太平洋構想とクアッドに参加し連携している。
アフリカ開発における日印ビジネス協力
インド太平洋協力は日本の故安倍元首相のイニシアティブによって構想が進展し,特にインド洋圏やアフリカ協力では,日印両国の連携が大きな役割を果たすと見られる。両国は,インドの改革政策が本格化する2000年以降関係が拡大深化し,「特別な戦略的グローバルパートナーシップ」にまで高まった。この関係の中で,インドの開発に日本が官民で協力を強化するとともに,インド洋圏やアフリカ開発では日印両国の協力や連携を進める。日本はアジア太平洋地域で開発協力やモノづくりに実績があり,インドはインド洋圏の大国でIT等の優位性がある。両国はこれらを活かし相互補完の協力連携を進める可能性が大きい。
構想は,2016年にケニアで開催された日本主導のアフリカ開発会議(第6回TICAD)で故安倍元首相が提唱し,その後インドで開催されたアフリカ開発銀行総会や日印協議等の議論を経て具体的な協力関係を進展させる。首脳会談や政府ベース協議に加え,インド工業連盟(CII)とJETROがアフリカビジネス協力プラットフォームを立ち上げるなど民間による協力も進む。一方,中国は今後の発展に期待のかかるアフリカでBRI戦略を進め,2000年からは開発フォーラム(FOCAC)を設けて支援を拡大している。中国の投融資額は巨額で,関連する現地中国人も100万人を超えているといわれ,存在感は大きい。
アフリカ開発における民間ビジネス協力は,2019年に横浜で開催された第7回TICADで話し合われ,今年8月27日,28日に開催される第8回TICADチュニジア会議で具体化に期待がかかる。アジア太平洋で実績のある多くの日本企業は,インドへのネットワークを広げ,これをさらにアフリカに延ばしつつある。インド国内で実績のあるインド企業は,アクト・イースト政策でアジア太平洋地域に,リンク・ウェスト政策で中東・アフリカ地域にビジネスを広げている。ここに日印企業は連携協力をする可能性が広がり,成長圏アジアと潜在性の大きいアフリカにアジアアフリカ成長回廊(AAGC)が形成される期待は高まっている。
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