世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2594
世界経済評論IMPACT No.2594

インバウンドのゆくえ

小野田欣也

(杏林大学総合政策学部 客員教授)

2022.07.11

 日本政府観光局の訪日外客統計によると2019年に3188万人を記録した外国人旅行者受入数は,2020年412万人,2021年24.6万人と新型コロナウイルス蔓延のため激減した。現在確認できる最新の状況(2022年の1~5月合計)で38.7万人であった。本年6月より団体ツアーに限り,訪日観光客の受け入れが再開され,インバウンド拡大を期待する向きも多い。

 観光白書によれば訪日外国人旅行者数は2000年代年間500~800万人程度であったが,いわゆるアベノミクス以降急速な増加に転じ,2013年1036万人,2016年2404万人,2018年3119万人と,2~3年で1000万人の増加を果たしている。それに伴ってインバウンド需要も拡大していったが,治安や異文化体験など観光資源を背景に旅行者数を世界と比較すると,世界との格差は依然大きい。2019年のデータでは世界第1位はフランス8932万人,続いてスペイン8351万人,アメリカ7926万人,中国6573万人,イタリア6451万人でここまで6000万人を超える。日本は世界で第12位,アジアで3位(2位はタイ),観光客数ではオーストリア,ギリシャと同程度の数である。最近のニュースでも,世界経済フォーラム(World Economic Forum:WEF)の2021年版「旅行・観光開発ランキング(Travel & Tourism Development Index)」で,日本は総合評価で初の世界1位に輝いた,と報道されている。国際収支発展段階説ではないが,観光資源を対外資産(外国人が海外旅行を通じて観光資産を利用)と解釈するならば,インバウンド消費は将来日本の方向性を示唆するものである。

 さて訪日外国人旅行消費額は2019年4兆8000億円,2020年7400億円,2021年1200億円(観光庁推計)であり,2019年の経常収支黒字の約25%,同年の貿易・サービス収支赤字縮小に貢献している。仮定だが2020年以降も世界的コロナウイルス蔓延が無く,2019年と同程度の訪日外国人旅行消費額が存在したとすれば,経常収支黒字に占める割合は2020年,2021年とも30%程度である。また2019年以降貿易・サービス収支赤字が継続しているが,2019年と同程度のインバウンド消費が存在すると想定すれば,両年とも貿易・サービス収支は黒字化する。この状況から見ても現代のインバウンド消費が日本の対外取引に関して,今後ともいかに重要になるのかが理解されよう。

 もっとも日本経済活性化に関してはインバウンドよりも,日本人の国内旅行消費額が多大に貢献していることは事実である。2019年で日本人の国内旅行消費額は21兆9000億円,国内延べ旅行者数は5億8000万人,これは訪日外国人旅行消費額の4.6倍,訪日外国人数の18倍にのぼる。さらに例えば2019年の訪日外国人旅行消費額の37%,1兆7700億円が中国からの入国者によるものである。最近中国へのコロナ関連入国規制が緩和されたとはいえ,インバウンドは相手国の事情に多分に依存するため,不確定要素が大きい。

 以上日本経済におけるインバウンド消費の重要性を議論してきたが,ほかにも最近急速に進む円安にも対応できよう。インバウンド消費は日本での円支払い(外貨の円交換,カード決済でも)のため,外貨売り円買いが発生し,急激な円安防止に機能する。一日あたりの入国者数の上限引き上げや団体ツアーに限る観光目的の入国許可など,政府はそれなりに入国緩和を進めてはいる。しかし先に述べた欧米の観光大国に比べその緩和は周回遅れである。インバウンド消費の取り扱いに切なる再考を期待する。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2594.html)

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