世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2519
世界経済評論IMPACT No.2519

中国のデジタル産業クラスター政策のクロノロジー

朽木昭文

(放送大学教養学部 客員教授)

2022.04.25

 前掲の拙稿(2022年4月18日付 No.2509)では,中国のイノベーションを伴う産業クラスター政策と技術革新の実証実験の進捗について触れた。本稿では,第14次5カ年計画(2021~25年)におけるデジタル経済やグリーン経済,産業クラスターの形成過程を時系列で整理する。

(1)習近平氏の考え方(2021年10月18日)

 第19期中央政治局第34回集団学習おける習近平氏の演説として,デジタル産業集積(クラスター)を形成することを打ち出した。デジタル経済の健全な発展は,新たな発展の枠組み構築,近代的経済システムの整備,新たな国家の競争優位の構築に資する。ここで,競争優位とはマイケル・ポーターのクラスターに関わる概念だと思われる(注1)。

 具体的に,基幹・コア技術の創出を強化する。新しい型のインフラ整備を急ぎ,デジタル経済と実体経済の融合した発展を図る。重点産業は,集積回路(IC),新型ディスプレイ,通信設備,スマートデバイスなどである。

(2)情報化・工業化深度融合発展計画(2021年11月30日)

 工業・情報化省は,「第14次5カ年計画期における情報化・工業化深度融合発展計画」を発表した。5項目の重点プロジェクトは,「インダストリアルインターネット(IIoT)プラットフォーム」普及プロジェクト,製造業デジタル化転換行動,両化融合規格リード行動,「産業チェーン供給チェーンデジタル化・高度化行動」などである(注2)。「IIoTプラットフォーム」普及プロジェクトが,クラスター政策である。

 重点産業の指定が産業政策であり,産業パークの形成が産業クラスター政策である。具体的には,装置製造,消費財,電子情報などの重点業種に関して,産業クラスター区の建設業種と地域の特色あるプラットフォームに目を向けて,「技術専門型クラスター」を建設する。

 工業・情報化省情報技術発展司総合処の馮偉・処長によれば,「産学研用金」(産業・学術・研究・ユーザー・金融)の協力強化を後押しし,IIoTモデル区,IIoT産業モデル・クラスターを形成する。

 その目標値として,IIoTプラットフォームの普及率を45%,全国の両化融合発展指数を105,企業経営管理のデジタル化普及率を80%,デジタル化研究開発設計ツールの普及率を85%,基幹工程の数値制御化率を68%にそれぞれ到達させる。

(3)国家情報化計画におけるデジタル化(2021年北京12月27日)

 「第14次5カ年計画期における国家情報化計画」は,デジタルインフラをより完備したものにし,デジタル技術イノベーションを基本的に作り上げる(注3)。

 10項目の重大任務は,デジタルインフラの建設,生産要素としてのデータの活用,デジタル生産力を引き出すイノベーションの発展,デジタル産業の育成,産業デジタル化転換,共同建設・ガバナンス・共有のデジタル社会ガバナンスの構築,デジタル政府サービス化,デジタル民生セキュリティーの構築,互恵ウィンウィンのデジタル分野国際協力の拡大,デジタルエコノミーのガバナンスの確立である。

(4)国務院の計画(2022年1月12日)

 国務院は「『14.5』デジタルエコノミー発展計画」を発表した(注4)。新しい産業・新しい業態・新しいモデルを育て,2025年までに,デジタルエコノミーの中核産業が国内総生産(GDP)に占める割合を10%にする。

(5)「東数西算」プロジェクト(2022年2月16日)

 国家発展改革委員会,中央サイバーセキュリティ情報化委員会弁公室,工業・情報化部,国家エネルギー局は,「東数西算」プロジェクトにより8地区に「国家データセンター・クラスター」を建設すると発表した。その地区は,北京・天津・河北,長江デルタ,広東・香港・マカオ大湾区,成都・重慶,内モンゴル,貴州,甘粛,寧夏である。

(6)第13期全国人民代表大会の『政府活動報告』(2022年3月8日)

 『政府活動報告』においても,デジタル経済の発展を促すことを確認した。IIoTクラスターの発展を加速し,集積回路,人工知能(AI)などのデジタル産業を大きく育てる(注5)。

 肖亜慶工業・情報化相は,「産業クラスターの役割を発揮させることがこれまで以上に重要になっている。」と述べた(注6)。

このように中国の産業クラスター政策は時系列的に進められている。日本の政府予算制度に中国方式の導入が望まれる。

[注]
  • (1)党19期5中総。2022年1月16日中国共産党機関誌『求是』2022年第2号。
  • (2)東京12月1日発中国通信,2021年12月1日付の経済参考報。
  • (3)2021年北京12月27日発新華社,中央インターネットセキュリティ・情報化委員会弁公室。
  • (4)北京2022年1月12日発新華社=中国通信。
  • (5)北京2022年3月5日発新華社=中国通信〕第13期全国人民代表大会(全人代,国会に相当)第5回会議が2022年3月5日。
  • (6)北京8日発新華網(新華社電子版)第5回会議の2回目の「閣僚通路」取材活動。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2519.html)

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