世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2509
世界経済評論IMPACT No.2509

中国の「実証実験」によるデジタル経済クラスター政策

朽木昭文

(放送大学教養学部 客員教授)

2022.04.18

 新製品のイノベーションには,基礎研究,応用研究,製品研究の3段階がある。第3段階の製品研究のために不可欠なプロセスは,「実証実験」である。中国の現状を明らかにする。

(1)5G+産業のインターネット

 中国産業インターネット研究院は,「『5G+産業のインターネット』革新・発展報告(2021)」をまとめた(注1)。5Gの商用以降,中国はすべての地区級以上の都市で5Gを実現した。全国で進行中のこのプロジェクトは1800件を超え,20余りの重点業界と分野をカバーする。

 テーマは鉱山,鉄鋼,交通,製造,電力など重点分野での応用,また医療,教育,スマートシティーなど重点分野への融合とイノベーションである。肖亜慶工業・情報化相によれば,新興技術クラスターの融合と革新を促進する(注2)。

(2)クルマのインターネット(IoV)

 インテリジェント・コネクテッド・ビークル(ICV)産業の発展が,複数の省・直轄市の第14次5カ年計画(2021~25年)(『14.5』)と2035年までの長期目標要綱に盛り込まれている。

 国家戦略レベルでは,2021年7月に,工業・情報化省,公安省,交通運輸省が改訂版の「ICV路上テスト・応用デモ管理規範(試行)」を公布した。

 工業・情報化相によれば,全国3500キロ余りの道路がインテリジェント化を実現,ネットワーク接続端末搭載の車両も500万台を超えた。

 市場調査機関の智研諮詢のデータによると,2020年に中国のIoV業界の規模は2126.5億元(1元=約18円)に達した。また,北京市ハイレベル自動運転実証(デモ)区工作弁公室によれば,国内初の自動運転移動サービスの商業化実験が北京で正式に始まった(注3)。

 嘉定,臨港,奉賢,金橋の四つの試験区(テストエリア)で253本,計567キロのテスト道路を開設し,テストが5000を超えた(注4)。

 中国の三大通信事業者は北京・上海・杭州・深圳・広州など20の第1次実験都市において,5GのIoV技術に関連する場内テストと場外テストを終えた。

(3)IPv6技術革新・融合応用の実証実験

 インターネットプロトコルの規格であるIPv6の「技術革新と融合応用の実証実験実施に関する通知」では,実証実験は技術革新・融合応用の推進を主軸とし,IPv6技術革新エコシステムの構築に重点をおく(注5)。

(4)VR(仮想現実)全産業チェーン・エコシステム

 VR産業は,『14.5』に加速・離陸期を迎える。

 工業・情報化省は「発展行動計画」を作成し,医療健康・工業製造・文化エンタメ・教育トレーニングなどの重点分野の特色を持つ優位産業のクラスターを育てる(注6)。

 「VR産業発展白書(2021年)」によれば,2021年1~9月の中国の投融資額が計407.09億元であった。江西省では,VR関連企業400社余りが集積し,2021年の生産額規模が500億元を超えた。

(5)医療機器産業発展5カ年計画

 『14.5』で「医療機器産業発展計画」が発表された(注7)。

 2021年の中国の医療機器産業の市場規模は8400億元(1元=約18円)に達した。

 工業・情報化省装備工業一司の王衛明司長によれば,七つの特色を持つ重点分野は,診断検査機器,治療機器などである。五つの特別行動は,重点医療機器供給能力向上行動やハイエンド医療機器応用モデル基地建設行動などを含む。

(6)銀行がメタバース(仮想空間)バーチャル従業員

 浦発銀行は,2019年12月13日にデジタル従業員「小浦」を導入した。浦発銀行では,顧客サービスと電話対応ではロボットが毎日8万件の電話を受け付け,顧客口座管理などのサービスを提供した。リスク説明や業務通知などでは,毎日50万件の電話を処理した。

 光大銀行は,2021年12月17日にバーチャル銀行員の理財アドバイザー・AIロボット「陽光小智」を発表した。それは,コロナの流行初期の約半年間で,ピーク期にサービス全体の96%以上を処理し,累計で3000万を超える顧客にサービスを提供した(光大銀行の楊兵副行長)。百度(バイドゥ)が出資する百信銀行は,2021年12月30日に初のバーチャルデジタル従業員「艾雅(AIYA)」を登場させた(注8)。

 ただし,メタバース産業は初期発展段階にあると分析されている。

(6)デジタル人民元の実証実験シナリオ

 中国人民銀行金融市場司(局)の鄒瀾・司長によれば,デジタル人民元の実証実験が2021年末までに808.51万を超え,個人デジタル財布の開設が累計2.61億に達し,取引額が875.65億元(1元=約18円)となった(注9)。実証実験は,上海,深圳などと2022北京冬季五輪会場で行われた。

 ここまで中国の目標値を設定したデジタル経済クラスター政策を「実証実験」の観点から説明した。日本にも不可欠な「実証実験」である。

[注]

  • (1)武漢2021年11月21日発中国新聞社。
  • (2)武漢2021年11月20日発新華社。
  • (3)東京2021年11月25日発中国通信。新華社ミニブログ微博(ウェイボ)。
  • (4)北京2021年11月23日発新華社。11月22日発売の時事週刊誌「瞭望」第47号。
  • (5)北京2021年11月11日発新華社。
  • (6)東京2021年11月5日発中国通信。
  • (7)北京2021年12月28日発新華社。11月4日の「経済参考報」。
  • (8)東京2022年1月14日発中国通信。1月13日付「経済日報」。
  • (9)北京2022年1月18日発新華社。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2509.html)

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