世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
カーボンニュートラルポート(CNP)とは何か
(国際大学副学長・大学院国際経営学研究科 教授 )
2022.03.28
カーボンニュートラルポート。聞きなれない言葉かもしれないが,国土交通省港湾局(以下,港湾局と表記)が新たに打ち出した「2050カーボンニュートラル」へ向けた新たな港湾のあり方に関する提言だ。
港湾局はまず,2021年6月に「カーボンニュートラルポート(CNP)の形成に向けた検討会」を発足させた。そこでの検討結果は21年12月に「カーボンニュートラルポート(CNP)形成に向けた施策の方向性」としてまとめられ,その際同局は,あわせて「『カーボンニュートラルポート(CNP)形成計画』策定マニュアル初版」も公表した。
島国である日本では,輸出入する貨物の99.6%が港湾を経由する。また,港湾の周辺には臨海部の工業地域が展開しており,エネルギーの一大消費拠点となるとともに,地球温暖化の要因とされる二酸化炭素(CO2)の大規模排出源ともなっている。このため,港湾およびその周辺地域で脱二酸化炭素化に向けた集中的な取り組みを行うことは,わが国全体の「2050カーボンニュートラル」実現に向けてきわめて効果的・効率的であると考えられる。これが,CNPの形成にかかわる基本的な問題意識である。
港湾局が公表したマニュアルは,CNP形成計画の対象範囲について,次のように述べている。
「CNP形成計画の対象範囲は,港湾管理者等が管理する公共ターミナル(コンテナターミナルやバルクターミナル等)における取組に加え,ターミナルを経由して行われる物流活動(海上輸送,トラック輸送,倉庫等)や港湾(専用ターミナル含む。)を利用して生産・発電等を行う臨海部に立地する事業者(発電,鉄鋼,化学工業等)の活動も含め,港湾地域全体を俯瞰して面的に設定することが推奨される。その際,水素・燃料アンモニア等のサプライチェーンの機能維持に必要な取組についても位置付けることが望ましい」。
港湾局は,CNP形成計画の策定にとりかかる準備作業として,20年12月からCNPに関する検討会議を6地域7港において順次開催した。選定されたのは,小名浜港(福島県),新潟港,横浜港・川崎港,名古屋港,神戸港,および徳山下松港(山口県)である。これらの検討会では,それぞれの港湾が立地する地方自治体が中心的なメンバーとなっている。
港湾局は,CNPの対象となる港湾施設を,大くくりにコンテナターミナルないしバルクターミナルととらえている。コンテナターミナルにおいては,水素・アンモニア・合成メタンなどの次世代エネルギーの輸出入や配送の拠点となる港湾施設の整備,船舶への次世代エネルギー供給体制の強化と次世代エネルギー燃料船の開発,再生可能エネルギー由来の陸上電力の船舶への供給,港湾荷役機械やトレーラー等への燃料電池の導入,トレーラー等向けの水素ステーションの整備,臨海部冷蔵倉庫等での次世代エネルギー利活用拡大などを進める。バルクターミナルにおいては,次世代エネルギーの輸出入や配送の拠点となる港湾施設の整備,港湾荷役機械や横持ちトラック輸送等への燃料電池の導入,トラック等向けの水素ステーションの整備のほかに,CO2の輸送と利活用,洋上風力発電由来の水素輸送ネットワークの構築,水素・アンモニアの専焼発電,火力発電所やエチレンセンターでの水素・アンモニア混焼によるCO2排出量削減,臨海コンビナート産業の次世代エネルギー利活用の拡大,次世代エネルギー活用型産業の立地促進,次世代エネルギー貯蔵施設の整備などにも取り組む。これらの施策を通じて,港湾・臨海部をカーボンニュートラル実現の檜舞台にしようとしているわけである。
ここまで述べてきた内容とは異なる文脈でも,港湾は,カーボンニュートラル実現に資することができる。注目すべきは,今後,再生可能エネルギー発電拡大の主役を担うと目される洋上風力発電の導入適地として,港湾が優位性をもつという事実である。
港湾は,海陸の境界という立地特性を有し,その周辺には数多くの産業が立地しているので,送変電設備が充実しているという特徴をもつ。港湾には,洋上風力発電施設の建設や維持管理に必要なインフラ(資材置き場や運搬道路など)が整っている。また,港湾法にもとづき港湾管理者が存在するため,関係者間の合意形成や諸手続きの円滑化が進みやすい。つまり港湾は,洋上風力開発の拠点であると言える。
これらの事情を考慮に入れると,CNPの対象となる港湾は,かなり多数にのぼる可能性が高い。先に言及した6地域7港湾は,CNP全体のなかの拠点港という位置づけになるであろう。
なお,CNPに関して留意すべき点がある。それは,大規模事業所の自前の港湾との関係である。
例えばJERAは,愛知県の碧南石炭火力発電所で本格的なアンモニアの混焼をまもなく始めるが,その際,海外からのアンモニア船は同発電所に直桟することになる。一方で,すべてのアンモニア船がバラバラにそれぞれの石炭火力発電所やエチレンセンターに直桟するのでは規模の経済性が働かず,輸送コストが上昇する。CNPの公共ターミナルで大量に受け入れ,そこから内航船で小分けした方が効率的であることも多いだろう。CNPと各事業所の自前の港湾との役割分担をどうするかは,今後の重要な検討課題である。
- 筆 者 :橘川武郎
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
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