世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2461
世界経済評論IMPACT No.2461

新型コロナに対するWTOの対応:貿易と保健

松村敦子

(東京国際大学 教授)

2022.03.14

 2021年12月16日,WTO(世界貿易機関)において,日本を含む34の加盟国・地域の要請により,「COVID-19 AND BEYOND: TRADE AND HEALTH」と題した声明が発出された。2020年11月にオタワ・グループ(14カ国・地域及びWTO事務局)が立ち上げた「貿易と保健イニシアティブ」に20の国・地域が加わり,取り組み内容も充実した。COVID-19への対応と将来のパンデミックへの備えとして,「貿易と保健」の観点から,コロナ禍で必要不可欠な医療関連財の貿易促進と有効な貿易体制構築に取り組む。基本認識としては,WTO加盟国の医療関連財の貿易政策面での国際協調がCOVID-19と将来起こり得るパンデミックとの闘いで有効であること,パンデミックにおいて必要不可欠な医療関連財(ワクチン,治療薬,検査薬,ワクチン関連財)へのアクセスは,安定的な貿易環境のもとで機能する強靭なサプライチェーンを通じて可能となること,必要不可欠な医療関連財の公平な分配の実現に向けては生産能力と投資の拡大が必要であり,COVAXファシリティ(COVID-19 Vaccine Global Access Facility)を含むACTアクセラレータ(The Access to COVID-19 Tools Accelerator)を通じた供給や輸入に依存する国々も含めた国際協調体制が重要であること,現在のパンデミックでの貿易政策上の挑戦を将来の危機での同様の取り組みに活かすことが重要であることが,挙げられている。

 本声明書は,パンデミック対応のすべての措置を網羅するのではなく,各加盟国がそれぞれの状況下で柔軟に対応するための指針を提供している。また,現在のパンデミックにおけるWTOの貢献とともに,将来のパンデミック発生の可能性を見据えて危機へのレジリエンス強化の目的を含んでいる点も重要である。

 医療関連財の貿易政策に関する提言の具体的内容は,1.輸出制限,2.税関・通関手続きと技術的規定,3.関税,4.透明性確保と実効性評価,5.医療関連財生産拡大と保健危機へのレジリエンス強化の5項目から構成される。輸出制限については,公平な分配を行う上で重大な不足が生じた場合にのみ実施でき,対象と期間の限定などの条件が付けられている。通関手続きに関してはスムーズなデジタル手続きが推奨され,技術的規定に関しては,国際機関同士の連携の必要性と,WTOの貿易円滑化協定・技術的障害に関する規定の徹底活用等が明記される。関税に関しては,加盟国の状況に配慮すべくCOVID-19に不可欠な財について一時的関税引下げ/撤廃が提唱され,医療関連財分類に関してはWCO(世界税関機構)やWHOが作成したリスト使用が推奨される。

 透明性確保については,COVID-19危機の間の輸出制限を含む貿易措置の情報を開示すると同時に,WTOへの通報等に関する監視を行うことも明記される。また貿易措置監視がサプライチェーン維持に与える利点も強調される。実効性評価に関しては,本声明開示後3カ月以内に,またその後はCOVID-19の収束までの間四半期毎に,WTO事務局はこの声明への参加加盟国・地域によって発動される貿易措置に関するリポートを発行する。また,医療関連財の生産拡大と保健危機へのレジリエンス強化への国際協力に関して,当該財の生産とイノベーションにおいて,特に最貧国への分配をサポートする国際機関等との協力強化が明記される。またCOVAXの活動を支持し,WTO規定と整合する形でワクチンや治療薬の不足に対処する生産拡大目的での金融支援を実施するとされる。

 以上のように,本声明書では,全体を通じてCOVID-19に立ち向かう34のWTO加盟国・地域の強い意気込みが伝わる内容であり,またWTO事務局長であるオコンジョ=イウェアラ氏がGaviワクチンアライアンス理事会議長時代に立ち上げたワクチン共同購入・分配の仕組みであるCOVAXファシリティの活動支持と,ワクチンの安定供給重視の姿勢が貫かれている。

 ところで,2021年12月にWTOが公表した2021年前半の医療関連財貿易統計によると,医療関連財の世界貿易額は2020年後半には2019年後半に比べて17.1%増加し,さらに2021年前半においても2020年前半比で12.4%増加した。一方,WCO分類のCOVID-19関連必需財の貿易は,2021年前半に2019年後半比で29%増加した。その背景にはワクチン用注射器・注射針の平均MFN実行関税率の4%以下への引下げ等,関税引下げ効果もあるとみられる。コロナ禍で必要不可欠な医療関連財の貿易円滑化と関税引下げを進めることはコロナ禍の早期解決に向けて重要性をもつ。

 この声明内容に関する今後の取り組みについては,WTO一般理事会が,本声明発出から6カ月以内にパンデミック対応に有効な貿易政策を取捨選択していくとしている。また2022年6月開催予定の第12回WTO閣僚会議において,保健関連財の貿易政策規定に基づく将来のパンデミック対策についての作業プログラム立ち上げが議論される。WTOがCOVID-19危機対応として採用した貿易関連措置を振り返り,将来を見据えた有効な施策を打ち立てることにより結束力を強め,意義をアピールしていくことが期待される。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2461.html)

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