世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
地球環境悪化の中で拡大するCOPの役割
(東京国際大学経済学部 教授)
2023.12.25
第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)は,2023年11月30日から会期延長により12月13日まで,アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催された。本稿では,COP28の合意文書の重要ポイントに焦点を当てて評価を行い,COP28での温暖化対策や温暖化による悪影響への対策の方向性を受けて日本が対応すべき課題について触れたい。
COP会合では1995年のCOP1以降,気候変動対策の国際枠組みを構築してきた。2015年のパリ協定合意に関するルール作り交渉は2021年のCOP26で一段落し,2022年のCOP27ではパリ協定目標に基づく気候変動対策の実施段階に入り,各国の具体的な温室効果ガス排出削減の取り組みに向けた議論が進められている。COP28で予定されていた議論のテーマは,化石燃料の削減や廃止,再生可能エネルギー容量の目標設定,途上国支援,温室効果ガス排出削減目標についての各国の進捗状況の検証であった。COP28で初めて取り組んだグローバル・ストックテイク(GST)は,パリ協定で定めた1.5℃目標に向けた世界での進捗状況を点検し,各国が2025年に提出する2035年での削減目標作成へのガイダンスを提供するもので,内容の曖昧さは指摘されるものの21ページにわたるCOP初のGST合意文書が作成され,1.5℃目標が再確認されて温暖化対策の具体的方向性が提示されたことの意義は大きい。
COP28合意文書では,再生可能エネルギー容量を2030年までに現在の3倍に高め,エネルギー効率を2倍にすると明記された。日本でも再生可能エネルギーを一層拡大させる努力が必要となる。一方で,サウジアラビアなどの中東産油国の反対により,EUと米国が要望し,国連のグテレス事務総長も主張した「化石燃料の段階的廃止」は明記されなかった。そうした中で,「2050年までにネットゼロを達成させるために,およそ10年間で化石燃料からの脱却を加速させる」という合意に至り,多くの産油国が参加したCOP28において,エネルギー源の化石燃料からの転換について合意されたことは注目に値する。
石炭火力については,依存度が高いインドが化石燃料はどれも等しく扱うべきと主張し,また石炭火力が電力の約3割を占める日本も石炭早期廃止に慎重である中で,石炭は天然ガスよりも温室効果ガスの排出量が多いため廃止を優先すべきだとされる。COP26合意文書での「排出削減対策のない石炭火力の段階的削減へ努力する」という内容に対し,COP28合意文書では「排出削減対策のない石炭火力の段階的削減への取り組みの加速」と記された。日本は石炭火力削減政策の議論を進め,世界に発信しなければならない。
COP28では初日の会合において,気候変動による干ばつや洪水で発生する途上国での損失と被害(ロスとダメージ)への対応として,先進国を中心に途上国を支援する基金制度の内容が合意され,その後の議論における参加国間での結束強化につながったとみられる。本基金制度はCOP27からの引き継ぎ事項であり,COP28で詳細が決定された。先進国の資金支援の義務化は見送られたが,UAEとドイツが1億ドル,EU(ドイツを含む)が2億2,500万ユーロ,イギリスが4,000万ポンド,米国が1,750万ドル,日本が1,000万ドルの拠出表明を行ったと報道された。
気候変動による損失と被害は発展途上国に集中し,干ばつや洪水が食料不安や飢餓,紛争を引き起こすと同時に,異常気象が原因で土地を追われた難民の問題も指摘されるため,本基金が気象災害で難民となった人々も支援対象にすべきかが検討されていると聞く。12月3日のCOP初の「気候変動と保健」の議論に向けて,議長国UAEが気候変動に伴う健康被害に対応する医療制度と資金支援を柱とする宣言を公表し,12月2日時点で日本を含む123ヶ国が賛同し英国などが資金拠出を表明したと報道された。このような人道問題には早急に取り組むべきで,日本についても,COPの場の議論を通じた何らかの貢献が求められる。
ガソリンや石炭を需要者に低価格で提供する化石燃料補助金については,COP28合意文書において「非効率な化石燃料補助金の速やかな廃止」と明記された。こうした補助金はエネルギー価格高騰対策としての支援であるが,国連のグテレス事務総長は,「こうした補助金はクリーンエネルギーや雇用対策に回すべきだ」と発言したと報じられた。日本ではガソリン税減税のトリガー条項凍結解除の議論がなされているが,減税対象を絞り込むなど世界の脱炭素の流れに沿った形で議論を進める必要がある。
その他のCOP28合意内容としては,道路交通からの排出削減対策の加速に向け,ゼロエミッション車,低排出車の迅速な導入についても明記された。さらに,既述した再生可能エネルギー容量拡大に加え,原子力,炭素回収,低炭素水素製造などの技術開発の加速も挙げられている。日本において技術開発で先行するアンモニアや水素の活用については国際的技術移転を行い,世界の脱炭素に貢献することが重要である。
- 筆 者 :松村敦子
- 分 野 :国際経済
- 分 野 :国際政治
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
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