世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2460
世界経済評論IMPACT No.2460

米中対立下,ASEANで高まる中国の存在感:「西部陸海新通路」の運行推進が寄与

小島末夫

((一財)国際貿易投資研究所 客員研究員)

2022.03.14

 過去2年余りにわたるコロナ禍で米中対立が激化する中,ASEANにおいて中国の存在感が米国に比べ一段と高まる傾向にある。南シナ海での領有権問題などを抱え中国への過度な依存に強い警戒感がみられるものの,双方の経済的結びつきが,従前にもまして深まりつつあることが背景にある。それは,ASEAN諸国の対中貿易依存度の上昇(特に対中輸入依存が顕著)やASEAN向け海外投資の多寡といった指標などから捉えると明らかである。

 そうした中で,中国とASEANの相互関係の緊密化を物流面から後押しし,重要な役割を担うようになってきたのが次の施策である。すなわち,早くは2017年段階から始動した,今日では「西部陸海新通路」と呼ばれる中国内陸部~シンガポールほか各国間を鉄道及び海運でつなぐ,新たな輸送ネットワークの構築がそれである。その複合一貫輸送ルートを利用する供給網の展開が次第に活発化しており,同運行の強力な推進と共に,近年の双方の経済的連携を側面から支えながら,貿易拡大にも貢献してきたことが主な要因といえよう。今や「中国とASEAN諸国の経済往来の大動脈になりつつある」との声さえ聞かれるほどである。

 中国は周知のとおり,国家戦略と位置付ける広域経済圏構想「一帯一路」の下に,これまで海のシルクロード(“一路”)のシーレーン上にあって地理的にも近いASEAN地域を重視してきた。とはいえ,同構想の目玉事業として打ち出された,例えば「東南アジア高速鉄道計画」を一つとっても,採算面の懸念などから想定されたほど順調には進展していないのが現状である。事実,全行程のうち一部の中国~ラオス区間(後述の「中老班列」)を除き,各路線の中止や延期が相次いで発生している。

 そこで新たに中国とASEANの連結性強化及び輸送の円滑化などを図る目的のため,長江の水運を活用した既存の上海内航船航路を補完する代替ルートとして浮上したのが,上で述べた「西部陸海新通路」にほかならない。

 この「西部陸海新通路」(2019年8月に同総合計画を公布)とは,中国内陸部の重慶・成都と同沿海西南地区の最南部にある北部湾港(欽州港を中核に防城港と北海港の3港で構成)とシンガポール港をそれぞれハブとする陸上+海上輸送ルートのことを指す。具体的には,陸路では重慶・成都からの国内鉄道及び高速道路をその主な手段とし,海路では欽州港発着のASEAN向けコンテナ船の運航を中心に,全体の輸送をシームレスで接続するというもの(「海鉄聯運」。SEA&RAIL方式)。そうした南下政策と併せ,北上政策に関しては重慶・成都から先の「中欧班列」へと延伸することで,結果的にASEAN~欧州間も直結できるよう設計されているのである。従って,同ルートの実現と遂行により,今後は東南アジア物流自体を大きく変えていこうとの野心的な全体像がうかがわれる。

 なかでも目下注目される動きは,上記ルートの結節点として大切な役割を果たす欽州港での貨物取扱量の急増など目覚ましい躍進ぶりである。昨今の世界的な海上コンテナ輸送の混乱や運賃高騰にも拘らず,同港のASEANに最も近いという地理的な優位性や利便性の良さから,中国で上位の取扱実績を誇る上海・深圳港などよりも利用価値が高くなってきている。同港では現在,寄港中のコンテナ航路は合計58に上り,うちASEAN向けなどを含む外貿航路は32を数えるという。その結果,近年における短期間での大幅な伸長が目立ち,2020年及び2021年をみた場合,同港のコンテナ貨物取扱量は395万TEU,463万TEUへと急速な発展を遂げている(注:今から5年前の2017年実績は177万TEU)。確かに当該水準は,アジアの周辺国・地域の主要港と比較すれば,依然としてまだ規模的に劣ることは間違いない。しかし,日本最大の東京港の取扱実績を既に上回る程度にまで達している点には改めて着目しておく必要がある。

 他方,中国西部地域の重慶・成都両都市を起点に,欽州港湾ターミナルと結ぶ鉄道貨物輸送については,まず週3便体制の定期運行が2017年から開始された。同鉄道の運行便数は初年度の178便を皮切りに,2019年に2,000便を超え,翌2020年は4,607便を記録した。そして2021年には遂に6,000便超に上り,同路線の開通以来,累計では1万4,000便(輸送量は70万TEU)を突破したのであった。参考までに,中国~欧州間大陸横断鉄道「中欧班列」の運行実績を比較のため挙げると,2021年の単年だけで1万5,000便(月間平均では1,000便以上)を上回っており,コンテナ貨物取扱量は146万TEUと過去最高。そのほか,国境を跨ぐクロスボーダー鉄道では,中国南寧(広西チワン族自治区)~ベトナム・ハノイ間の国際貨物列車「中越班列」が,同じく2017年秋に初便が運行されてから着実に伸びており,2021年実績は前年比2.1倍増の346便となった。加えて,中国各地からの新路線が続々と誕生する状況にもあり,直近では2021年末に中国昆明(雲南省)~ラオス・ビエンチャン間を結ぶ「中老班列」が新規に開業している。中国の地方政府による各種支援措置(補助金の支給や運賃優遇など)が奏功して,鉄道の利用を一層促進しているようだ。中国とASEAN諸国間の貨物輸送の方式や路線がさらに多様なものとなっていることが分かる。

 以上で見たように,中国はASEAN諸国の成長力を取り込もうと影響力の拡大を目指し,着々と攻勢を強めていることが鮮明になっている。しかも,本年1月初めから発効したRCEP協定を追い風にCPTPP加盟をも視野に,きめ細かな対応で相互関係の更なる強化に向け乗り出そうとしているのである。

 それに対して,米国は台頭著しい中国のASEANにおける影響力拡大への対抗の狙いから,ASEAN重視の姿勢を標榜しつつ関与を強めようと,巻き返しを図るべく新たなインド太平洋戦略を最近発表した。今後の安全保障や経済政策の指針となるような,米主導の新しい経済枠組みを早期に打ち出すものと言われる。だが,今般のロシアによるウクライナへの軍事侵攻という国際情勢の激変も受けて,その対応に遅れが生じていることは否定できない。つまり,米中のASEANにおける存在感の差はなかなか縮まっていないのが実態である。

 このため,ASEANを舞台に繰り広げられる米中間のせめぎ合いの中にあって,日本としては,ポスト・コロナのアジア経済の景気回復や成長促進にも資するような協力プロジェクト事業を,これから前向きにどう進めていくかが強く問われている。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2460.html)

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