世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2285
世界経済評論IMPACT No.2285

世界の主要航空会社で明暗分けるコロナ対応

小島末夫

((一財)国際貿易投資研究所 客員研究員)

2021.09.20

 新型コロナウイルス感染症の発生以来,既に1年半余りの月日が経過した。その世界的な大流行(パンデミック)の影響により,国際経済は2008年秋のリーマン・ショック後をはるかに上回る壊滅的な打撃を被った。とりわけ,感染拡大でヒトの厳しい移動制限が続く中,世界の航空需要は急減し,同業界では第二次世界大戦後,最悪とさえ言われるほどの大幅な落ち込みを経験した。

 こうした情勢の下で,航空各社の間では,その後のコロナ対応を巡り業績の回復力に明白な差異が目立つようになり,ある意味で明暗が分かれる結果となった。そのカギを握る主な要因の一つこそ,従前の航空旅客中心から貨物事業へのスムーズな転換の成否であった。つまり,コロナ禍で一気に消失した旅客需要を貨物で如何に早く取り込むか,まさにそれが問われ勝負のポイントだったわけである。

 国際航空運送協会(IATA)のデータによると,2020年の世界全体の運航便数は大幅な減便や運休などが原因で,前年の3,890万便から半分以下の1,640万便に大きく縮小した。また,有償旅客が搭乗して飛行した総距離で表す航空旅客数に関しては,前年の45億人と比べ6割減の約18億人へと,史上最悪の落ち込みを記録するに至った。これは,航空業界が2003年当時の輸送実績と同一水準に相当するという。その結果,2020年の航空旅客収入は合計20.2兆円と,前年の66.4兆円には遠く及ばず著しく減少した。加えて,世界の航空会社が計上した最終損失額は,実に13.6兆円(純利益率は前年比33.9%減)規模にも達することが明らかとなった。

 他方,そうした反面で航空貨物事業の指標を捉えると,2020年の航空貨物需要は,総貨物量は前年実績の6,130万トンに届かず5,420万トンに若干低下したが,貨物収入の方は,コロナ以前の2019年の11.1兆円から2020年に13.8兆円へと増加を遂げ,輸送量とは異なる傾向が示されたのである。

 このため,世界の航空各社とも揃って手持ちの貨物専用機(フレイター)をフル稼働させた上にチャーター便や臨時便の随時投入のほか,旅客機の床下貨物スペース(ベリー)の積極的な活用と旅客機を貨物機に転用・改造するなどの動きが一段と加速されることになった。旅客の減収分を貨物輸送で出来る限り稼ぐという図式がここに定着したのである。これを受け2019年時点では,航空会社の総収入に占める貨物収入の割合が大体12%程度に過ぎなかったものが,翌2020年においては同比率が一挙に全体の3分の1を超え4割近い39%まで上昇したと指摘されている。今や収益の柱となった感のある国際貨物輸送だが,それでもなお全体的に旅客収入の減少分を十分補うにはまだ至っていないのが実情である。

 それでは,旅客数の急激な減少が世界の主要航空会社の経営に果たしてどのような悪影響をもたらしたのであろうか。欧米及びアジア地域の大手航空会社5社の決算状況を基に,まとめてみた。

 ここで全般的に浮かび上がってきたのが,総じて欧ア企業のなお続く厳しい状況vs米企業の急回復という構図である。すなわち,欧州及びアジア勢は,概して改善の方向にあるもののコロナ下の長期化が響き,航空需要の回復遅れに伴い依然として苦境が続いている。それと対照的なのが米国の三大航空会社である。他国と比べワクチン接種が相対的に進んでいることから,いずれも主力の国内線(収入の7割以上)が盛り返し,同需要増が牽引する形で回復しつつある点が読み取れる。

 具体的には,紙幅の関係もあり特に直近の本年4−6月期決算に絞り込みながら,上記の大手航空各社の業績をつぶさに対比してみた。

 まずデルタ航空(保有機数は約790機)は業績が急回復し,最終損益がコロナ禍で6四半期ぶりに初の黒字転換を果たした。ただ,これには米国政府からの約1,500億円に上る補助金(給与サポートプログラム)で支えられた側面があり,実質的には約970億円の赤字のままであることに留意する必要がある。一方,ルフトハンザ航空(約760機,うちフレイター18機)は売上高,損益とも市場予想を下回り,赤字幅が縮小したものの,最終損失額は前年同期比43%減の約1,220億円であった。また日本を含むアジアでも,中国南方航空(約870機,うちフレイター16機)が同年6月の中間決算で増収減益を示し,赤字幅自体は大幅に縮小して約300億円となった。次にANA(約240機,うちフレイター11機)の場合は,連結最終損益が前年同期から半減するもなお約510億円と大きな赤字を抱えた。

 そうした個別事例の中にあって特筆すべきなのは,貨物事業で快進撃を続ける大韓航空(約160機,うちフレイター23機)である。旅客収入が横ばい低迷の状態にある半面,貨物収入については更に増加をみせ,売上高に占める双方の比率は現在1対7にまで上昇している。その結果,本年4−6月期の売上高は前年同期比12%増の約1,890億円で,純利益は約110億円の黒字を実現するに至っている。営業利益のほぼ8割が貨物事業によるものであり,コロナ前の2割余りから急増している点が特徴的である。まさに生き残りをかけて取り組んだ航空貨物への大胆なシフト策が奏功した形である。ちなみに,貨物輸送で主に利益を計上している珍しい例としては,他に台湾の中華航空(約90機,うちフレイターは21機。上記比率は旅客1対貨物4の割合)のケースがある。

 以上で述べたように,世界の航空会社では一様に,コロナ以前と比べ収入構造が大きく変わることとなった。足元でも変異株の蔓延によりデルタ型コロナは感染再拡大の様相を呈してきており,航空業界における業績回復が再び鈍化し先行きを見通せなくなっている。事実,IATAの最新航空旅客動向予測によれば,コロナ前への回復は早くて2023年になるとの見込みである。少なくとも今年,来年の終息がかなり厳しい局面にあることを如実に物語っている。つまり,従来からの旅客中心の飛行体制は改められることが肝要で,引き続き貨物輸送を中心とする経営に頼らざるを得ないというのが現実味を増している。

 いずれにせよ,こうした新型コロナウイルスとの長い闘いが続く中で,アフターコロナのことも踏まえつつ今後どう向き合い対応していくのか,航空各社の力量が改めて試されていると言えよう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2285.html)

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