世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2394
世界経済評論IMPACT No.2394

コロナ禍で活きる横浜緑アップ市民農園

山崎恭平

(東北文化学園大学 名誉教授・国際貿易投資研究所 客員研究員)

2022.01.17

 新型コロナウィルス感染症は,オミクロン変異種の世界的な感染拡大もあって収束にはまだ時間がかかる展開である。新常態と目される自粛生活は,健康維持や行動様式に変化を強いているが,新たな機会や楽しみを与えてくれるものもありそうだ。自身の身近な例から考察してみると,居住地近くの丘陵傾斜地に造成された市民農園利用で農体験や地域交流に楽しみを見出し,防災意識に気付いた体験がある。このユニークな市民農園の存在については市内でもほとんど知られていないようなので,その由来や概要を紹介する。

傾斜地公園に12㎡区画貸し農園

 人口377万人強の政令指定都市横浜は,首都東京に隣接しインフラ等の利便性が良い上に,大都市にしては丘陵地や谷地があり比較的緑が多く残っている。この緑豊かな自然環境は,横浜市が住み易さや都市の魅力の大きな要因の一つといわれてきた。しかし,この自然環境は宅地開発や山林,農地等の減少傾向で年々悪化しつつあり,その対策が行政や市民の大きな課題となってきた。そこで,横浜市は「横浜みどりアップ計画」という市民と協働して進めるユニークな緑地保全政策を実施し成果を上げている。これは緑豊かな環境を未来に残す目的で行政と市民が一緒になって「緑を守り,つくり,育てていく計画」で,財源の一部には市民税や法人税から「横浜みどり税」を当て活用している。

 2009年度から始まったこの計画は,所管の横浜市環境創造局によると市内の緑の多くは民有地で,所有者は税負担や維持管理が負担となり開発の選択で緑が減ってしまう懸念から,行政が緑は市民共有の財産としての社会資本として支援する。現行19−23年度計画の柱は,①市民とともに次世代につなぐ森を育む(5か年300haの樹林地指定等),②市民が身近に農を感じる場をつくる(水田の保全や農園開設維持管理等),③市民が実感できる緑や花をつくる(並木の再生,緑のまちづくり等)である。計画理念として,「みんなで育む みどり豊かな美しい街 横浜」がうたわれている。

 コロナ禍で市民が外出自粛を強いられている中でその存在感が高まり計画が活きていると感じるのは,②の計画の柱にある農園のある公園の体験である。これまでに市内18区のうち11区に14の農園のある公園が整備され,そのうちのひとつの公園の農園利用で自ら体験している。ここは道路脇の丘陵傾斜地3,373㎡に4段のゾーンを造成し,そのうち2段に農体験ゾーンとしてひと区画12㎡(3m×4m)の個人向け38区画,広さは約2倍の団体用3区画,広さが10倍の協働農園1区画を配置し,残り2段に障害者が車椅子でも利用できる農園と梅林の自然体験ゾーンを配している。園内には子供や高齢者,障害者に配慮したバリアフリーの坂道や階段が設けられ,共用の農器具や利用者の個別収納ロッカーを配した倉庫,上下水道,多機能トイレ,休憩ベンチ等が用意されている。また,圏内で雨水を貯め活用する試みや太陽光発電の園内照明も行われている。

農体験で地域交流や防災意識,健康増進

 この農園のある公園の存在を知ったのは,仙台市内での奉職から横浜市に十数年ぶりに戻り,居住地近くの散歩の途中であった。たまたま空いている農園地があるのを知り管理委託された市内種苗企業に申し込み,利用者となっている。契約更改2期目には新型コロナウィルス感染症の拡大に巻き込まれ,また日本各地での異常降雨気象や台風通過による土砂災害の頻発を見聞している。仙台奉職時に東日本大震災を被災した防災意識の高まりもあり,傾斜地を有効活用した公園の農園は農体験の喜びや農園利用者との交流の楽しさだけでなく,土砂災害回避の備えにもなっていると観察している。

 市内の貸し農園は耕作地所有者や農家による民間農園が主流で,行政が提供する農園は多くはない。そんな限られた場での経験であるが,この公園内の市民農園は利用者に好評で,コロナ禍故に地域住民には散策先となり,健康維持に便宜を与えている。近くの保育園児や老人ホーム入居者にも恰好の散策先になり,コロナ禍の中でここを訪れる市民は増えている。農園利用者にとっては,農園利用料が個人区画で共用農具やロッカーを含め年1万800円で,管理委託企業派遣の専門家が週2日,栽培相談員が月1回は訪れて園内の草刈り,清掃等の管理をしてくれ,栽培相談や指導を受けられて有難い。また,アクセスに徒歩と自転車以外の交通手段を利用できない設定も,周辺環境の維持に貢献している。私自身は農園利用で往復1万歩近くの外出で健康増進を図り,途中の富士山や丹沢山塊が望める景観を楽しんでいる。

 傾斜地を活用するこの農園付きミニ公園は,利用者や地域住民がこうした恩恵や楽しみを感じるだけでなく,危険な宅地開発や乱開発を防止し,最近の各地で頻発している土砂災害対策で有効な試みではないかと評価されよう。横浜市も市内居住地のハザードマップを公開し防災意識の涵養に力を入れているが,多額を要する大規模な災害対策でなくとも防災面でも有効と目される小さな農園付き公園がもっと増えて欲しいと望んでいる。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2394.html)

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