世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2336
世界経済評論IMPACT No.2336

パクス・アメリカーナの終焉?

小浜裕久

(静岡県立大学 名誉教授)

2021.11.08

 第2次世界大戦が終わって70年以上が経ち,大戦争がないという意味の「平和」は,世界中の多くの人にとって当たり前の風景になっているようだ。日本国憲法前文は,平和を希求する理想を美しく歌い上げている。祈れば,求めれば,平和が実現し維持されるなら,坊さんや牧師さんを自衛隊員にして,毎日平和を祈ってもらえばいいだろう。

 明治の初め,プロイセンを訪れた岩倉使節団は鉄血宰相ビスマルクに会って,「日本国は国際法を遵守し」と話したところ,ビスマルクは,「大国は,強国は,都合がいい時は国際法を持ち出して自国の考えを押し通すが,自国の利益が国際法と矛盾する場合,強国は国際法など歯牙にもかけない」と答えたという。確かにそれが国際政治の現実だろう。それは21世紀の今も変わらない。

 「パクス・ロマーナ(ローマによる平和)」は2000年前の話だ。「パクス」は,ローマ神話に出てくる「平和の女神」らしい。「パクス・ロマーナ」に引かれて,「パクス・ブリタニカ(イギリスによる平和)」,そして「パクス・アメリカーナ(アメリカによる平和)」といった言葉が,人口に膾炙した。いつの時代にあっても,人々は「平和で」「豊な」社会・世界を求めている。しかし,残念ながら「愚かな」人類は戦争を繰り返してきた。

 「パクス・アメリカーナ」の時代があったということは,多くの人が同意するだろう。1944年のブレトン・ウッズ会議以降,1971年8月のニクソン・ショックによってブレトン・ウッズ体制が終わるまでの四半世紀,これは「パクス・アメリカーナ」の時代だったと言っていいだろう。しかし,ニクソン・ショックから50年経った今の我々は,どのような時代に生きているのだろうか。「パクス・アメリカーナ」の時代は50年前に終わったという論者もいれば,いやいや,我々は今も「パクス・アメリカーナ」の時代にいるのだという人もいる。

 台湾のTPPの加入申請に対して中国は激しく反発していた。では,2001年の中国,台湾のWTOへの同時加盟はどう考えるのだろうか。長くドイツを率いてきたメルケル首相は引退する。ドイツだけでなく世界の政治をリードしてきたと言っていい16年。クレムリンでプーチンと並んで記者会見をしても平気でロシアの非民主的政治を批判したメルケルも退陣する。

 いま我々が,「パクス・アメリカーナ後」の時代に生きているのか,はたまた依然「パクス・アメリカーナ」の時代に生きているかはともかく,米中対立を考えるだけでも,難しい世界に生きていることは間違いない。

 日本は大丈夫だろうか。10月末の総選挙における各党の公約を見ると,与野党の政策はどこもポピュリスト政党。矢野財務次官が言うように,「コロナ対策は大事だが人気取りのバラマキが続けばこの国は沈む」というのは,いたって正論(『文藝春秋』,2021年11月号)。自民党の役員の中には,矢野財務次官の論考に対して,「失礼だ」と言っている人もいるらしい。エリザベス女王は,10月末から11月にかけてグラスゴーで開かれたCOP26に対するビデオ・メッセージで,「politics」でなく「achieve true statesmanship」と言っている。今のことではなく将来の地球全体のことを考えて欲しいということだろう。

 かつてサイモン・クズネッツは,世界は4つのグループに分けられると言ったと伝えられている。豊かな国と貧しい国,そして日本とアルゼンチンだ。クズネッツ先生,いまの日本を見たら,なんと言うだろうか。今世紀に入って最初のアルゼンチン経済危機があった2001年12月31日,Financial TimesにRisky tango in Tokyoという社説が載った。「国際金融界に悪いジョークが駆け巡っている。アルゼンチンと日本の違いを知ってるか。Five yearsさ」。20年経って,悪い冗談が現実になってきているんだろうか。

 アメリカに目を向けても,分からないことがいっぱい。共和党支持者の多くが,トランプに再び大統領になって欲しいと思っているらしい。一国主義で国際協調などくそ喰らえ,アメリカだけがよければいい,それが「アメリカを偉大な国」にすると言うのだろうか。漫画しか読まないと言われる自民党の派閥の領袖が,「日本は民度が高い」というのは,ちと違和感があるが,アメリカの地方に住む多くの人が,ローカル紙はともかく全国紙など読まず国際問題には関心がない,と言う人もいる。70数年前,日本に駐留したアメリカ軍の若い兵士が,靴磨きのおじさん,おばさんが,客がいないとき新聞を読んでいるのを見てビックリしたということを読んで,本当にビックリした。ハノイに行けば,露天のおじさん,おばさんも客がいないときは,新聞や雑誌を読んでいる。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2336.html)

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