世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2301
世界経済評論IMPACT No.2301

中国のCPTPP加盟申請・交渉の着目点は

椎野幸平

(拓殖大学国際学部 准教授)

2021.09.27

 中国が,9月16日,CPTPP(TPP11)への加盟申請を行った。2020年11月のAPEC首脳会議で,習近平国家主席がCPTPP参加を検討する方針を表明した後,一年越しで正式に申請に踏み切った。中国のCPTPP加盟申請と今後見込まれる交渉ではどのような点が着目点となるのであろうか。

協定書上の大きな論点

 今後の中国の加盟交渉において,CPTPPの協定書上で中国にとって大きな課題となるとみられる論点は,既に広く論じられている通り,電子商取引,国有企業,労働となろう。この3点について,中国が批准したRCEPとの比較でみていくこととする。

 電子商取引章では,TPP3原則と呼ばれる①電子的手段による情報の越境移転の自由の確保,②サーバーの設置義務の禁止,③ソースコードの開示要求禁止が盛り込まれている。中国が批准したRCEPでは,①と②は盛り込まれたものの,同時に強い例外規定が規定されており,また③については盛り込まれておらず,CPTPPの規律は中国にとってハードルが高い。

 RCEPの強い例外規定とは,締約国が公共政策の正当な目的を達成するために必要であると認める場合で(この公共政策の正当な目的についてはCPTPPでも同様の規定が盛り込まれている),かつその必要性については当該締約国が決定できること,加えて安全保障上の重大な利益の保護のために必要であると認める場合でかつ他の締約国は当該措置については争わないことが,明記されていることである。現実に国境を越えたデータ移転に対して規制を課している中国が,CPTPPの規定をそのまま受け入れることができるのか不透明な点である。

 国有企業については,CPTPPで盛り込まれ,RCEPではそもそも章立てはされていない。CPTPPの国有企業章では国有企業への補助金に規律を与える内容となっている。多数の国有企業を抱える中国が同章の規律を受け入れられるかが課題となるが,論点は例外をどこまで認めるかにある。CPTPP現批准国の中では,多数の国有企業を抱えるベトナムにとっても国有企業章は大きな課題であったが,ベトナムには附属書に基づいて広く例外が認められている。TPPの合意を優先した結果と考えられる。恐らく,中国は加盟交渉において,ベトナムと同様に広い例外を求めてくることが考えられ,国有企業章は例外の幅を巡る交渉となりそうだ。

 労働章もCPTPPで盛り込まれる一方,RCEPではそもそも章立てはなされていない。労働章では強制労働の撤廃などILO(国際労働機関)宣言の権利を自国内で確保することなどが規定されており,中国にとってはセンシテイブな分野となる。

USMCAの非市場経済国条項の影響

 米国のサキ報道官は,9月16日の会見で,中国のCPTPP加盟については,「加盟国の判断に委ねる」と発言している。しかし,中国のCPTPP加盟交渉では,米国はカナダとメキシコを通じて,間接的に影響を及ぼすことは可能と考えられる。

 それは米国,カナダ,メキシコが新NAFTAとして発効させたUSMCAに,非市場経済国条項と呼ばれる規定が盛り込まれているためである。非市場経済国条項は,USMCA締約国が非市場経済国とFTAを締結する場合には,他の締約国に協定内容を事前に開示することなど情報提供を義務付けているものである。加えて,いずれかの締約国が非市場経済国とのFTAを締結した場合には,他の締約国はUSMCAを終了できるとの規定もなされている。同条項が中国のCPTPP加盟交渉に適用し得るならば,カナダとメキシコは,米国からCPTPPとUSMCAを天秤にかけられることも想定され,米国は間接的に影響力を及ぼし得る構図にある。

見通せない米国のTPP復帰

 中国のCPTPP加盟交渉では,中国が高度なルールを受け入れることへのハードルは高く,日本をはじめTPP締約国はそれを求める立場を堅持すると考えられ,加盟交渉は容易には進みそうにはない。

 TPPへの米国復帰が望まれるところであるが,バイデン政権は,依然としてTPP復帰の意向を示していない,前述のサキ報道官の発言でも,バイデン大統領は当初のTPPには復帰しない方針であると発言している。仮に復帰する場合でも,環境や労働,政府調達などで再交渉を求めてくることも考えられる。少なくとも,今回の中国のCPTPP加盟申請が,米国の通商分野での関与を引き出すことにつながることを期待したいところだ。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2301.html)

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