世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2229
世界経済評論IMPACT No.2229

中国:人口減少が激化させる地域間の優勝劣敗:少子化時代の価値観変化も

遊川和郎

(亜細亜大学アジア研究所 教授)

2021.07.19

 中国では少子化の進行が労働力ひっ迫を招いていること,高齢化が引き起こす問題の本質は世代間格差であることを先に述べた(本コラムNo.2045No.2135参照)。

 中国政府は5月12日に人口センサスの結果を発表,同月31日には共産党政治局が第3子容認の方針を明らかにした。人口動態が引き起こす問題は津波と同様,発生から到達に至る時間や場所をある程度予測することは可能であり,中国政府はその衝撃に備える対策を順次とっていくものと思われる。

 すなわち,いつどこにどういう波が押し寄せうるのか,その対策の有効性と副作用について考えることが必要である。大きな第一波は既に進行中の労働力の逼迫,各地域での人口奪い合いであり,これは今後長期にわたって持続する。その結果,国内地域間で優勝劣敗がはっきりと出てくる。

 見えてきた勝ち組は,江蘇,浙江,福建,広東の東南沿海部で,最大の勝者は広東省である。広東省は,面積は日本の半分ながら人口1.26億人と日本に匹敵する。1990年の6347万から30年でほぼ倍増,この10年で2171万(21%)増加した。他の地方からの若い世代流入が経済発展をけん引する。広州市は2010年比598万増の1868万人,深圳市は714万増の1756万,省内第3の都市東莞市は今回初めて1000万を突破(1047万)した(『人民日報』海外版2021/6/8参照)。

 さらに驚くべきはその高齢化率(65歳以上)で,8.58%と全国平均の13.5%を大きく下回り,今回の調査で全国下から3番目(チベット,新疆の少数民族地域に次ぐ)の若さだ。経済発展の恩恵が若年層を引き寄せる好循環を生んでいる。さらに省内の都市では,広州市7.82%,深圳市3.22%,東莞市3.54%と全く別次元の姿が見えてくる(ジェトロ「ビジネス短信」2021年06月03日参照)。

 一方,典型的な負け組は東北三省(遼寧,吉林,黒龍江)で,人口はいずれも2010年から大幅に減り(黒龍江は10年で17%減),遼寧省の高齢化率は全国一高い17.4%である。

 センサス結果に対する日本の報道では,高齢化の進行(10年間で高齢者6割増)に焦点を当てるものが多いが,少子化の進行が誘発する若者の生態系の変化にももっと着目した方がよい。

 日本で「団塊の世代(1947年~1949年生まれ)」の後「しらけ世代」「新人類」が,また「団塊ジュニア」の後,「ゆとり」「さとり」「草食系」と呼ばれる異なる価値観の若者が出現するように,上の世代で繰り広げられる激しい競争を見て育った少子化世代は頑張らなくともよい生き方を選択する。

 中国でも,頑張りすぎを揶揄する「内巻」という表現が昨年からネット上で流行りだし,昨今では「躺平(寝そべり)族」と呼ばれる消費意欲や上昇志向の乏しい若者が話題になっているのは同様の現象といってよい。上の世代に比べれば同世代の中での生存競争はそれほどでもなく,社会の成熟もあってそれが可能となる。落ちこぼれる恐怖感から解放された世代と言ってもよい。

 西暦2000年以前には大学に進学すれば給料は3倍という勝利の方程式が存在していた。しかし,その後成功の必要十分条件はどこかに行ってしまい,先の見通せない厳しい生存競争だけが残った。中国官製メディアは「寝そべり」に代表される現象を「先進国病」と警戒するが,こうした意識の変化が経済社会に及ぼす影響を注視していく必要がある。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2229.html)

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