世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
オンライン選任の三菱ケミカルの外国人社長
(神戸大学 名誉教授)
2020.12.28
三菱ケミカルの次期社長に外国人が選任された。ベルギー出身のジョンマーク・ギルソン(敬称略,以下同じ)である。かれは,日本では知られていないが,欧米化学企業の経験が豊富であり,日本での駐在経験がある。
この外国人社長の選任は,オンラインだけで行われた。
この事例は,オンラインの限界ないし弱点の一般論に挑戦するものとして,興味深い。
富士フイルムの会長・社長の古森重隆は,オンラインの限界についていう。「直接的な人と人のコミュニケーションが絶対に必要だと私は思う。文章やネットを介したやり取りだけでは伝わらない情報があるし,できない意思疎通もあるからだ。だから,重要な意思決定では,直接の対話を大事にしている」(日経ビジネス,2051号,2020年8月3日号,102ページ)。同氏はまた,「社風や,社内にいるからこそ共有できる意欲や感覚などは,物理的に同じ場所で働いていないと分からない」という。
この外国人社長の選任を主導したのは,小林喜光会長である。小林はいう。「ギルソン氏への要望は,株価を上げてくれと。この5年ぐらいで最低でも時価総額を2倍,3倍にしてくれと。この会社に最も欠落しているのは,どう儲けるかという意識なんです」(日経ビジネス,2020年11月30日号,84−85ページ)。同氏は,また,つぎのようにいう。「社内にも『もっと危機感を』『ゆでガエルになるな』と訴え続けてきたからこそ,我が社でもカエルが跳び上がるヘビの役割をギルソン氏に期待しています。いや,彼のパフォーマンスそのものというよりも,彼を入れたことによる会社全体の緊張感の醸成か。英語を勉強しよう。英語で話そうとハッパをかけるよりも,外国人社長になったらおのずと英語を話さないわけにはいかないでしょう?『内なるグローバル化』にも期待しています」。
小林は,オンラインの信奉者であり,実践者である。同氏は,2020年4月7日の緊急事態宣言の直後から1か月以上,東京・丸の内の本社に寄りつかなかった。決算取締役会から自身が議長を務める政府の規制改革推進会議まで,すべて自宅の書斎からリモートで参加し,仕事は円滑に進んだ(西條都夫,日本経済新聞,2020年5月18日)。
次期社長に選任されたギルソンは,56歳である。小林と会ったことがない。かれは,東レとダウコーニングの合弁会社,現デュポン・東レ・スペシャルティー・マテリアルの幹部として,日本で勤務したことがある。妻は日本人である(日本経済新聞,2020年12月5日)。
三菱ケミカルの外国人社長の選任でいちばんの特徴は,同社の会長,社長など経営陣,および社長の選任にあたった指名委員4名(小林をふくめて)の誰も,ギルソンに会ったことがなく,オンラインだけで選任したことである。日本だけでなく,世界でもはじめての試みではないだろうか。
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