世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
フラットな世界から分断の世界へ
(神戸大学 名誉教授)
2020.10.05
世界的ベストセラーの『フラット化する世界』の著者,トーマス・フリードマンはいう。「これまでになく平等な力を持った人々が,接続し,遊び,結びつき,協力し合うことができるようになった」(邦訳,10ページ)。
フリードマンはつぎのようにもいう。「グーテンベルクの活版印刷の実用化の場合,何十年もかけて行われ,長いあいだ地球のごく一部にしか影響を及ぼさなかった。産業革命も同じだ。いまのフラット化の過程は,時間がワープしているような速さで進み,直接的もしくは間接的に地球のかなりの範囲の人々に同時に影響をあたえている」(邦訳,78ページ)。
『フラット化する世界』が刊行(邦訳,2008年)されてから10年ほど経つ。その10年間で,世界がすっかり変わってしまった。フラットな世界では,世界的な規模で,人々が接続し,結びつき,協力し合うことができたのに,現在は,これとは正反対といってもよい世界になってしまった。現在の分断の世界では,人々ははなれて,結びつかず,接触をさける。国境は封鎖され,海外旅行なし,訪日外国人なし,個人間の対面での接触の抑制,オンライン在宅勤務の普及,個人が友人などと会食する場合,あいだにパーティションをおく。
フラットだった世界を分断の世界に変えた3つの新しい動きは,トランプ,ブレグジット,コロナである。トランプ大統領の選出は2016年11月(なお,トランプ大統領のカウンターパートナーである習近平が国家指導者になったのは2012年11月),ブレグジットの国民投票は2016年6月,である。いちばん重要と考えられるコロナは2020年になってからの事象である。新しい動きは,5年ほどの歴史しかなく,文字どおり新しい。まさに,あっという間に,それまでのフラットな世界が分断の世界に一変したのである。
フラットな世界では,人々は接続し,結びつき,協力し合う。他方,現在の分断の世界では,人々は,はなれる,結びつかない,対面での接触・会話をしない,などである。正反対の世界といってよいだろう。
ところで,フリードマンは,世界をフラット化した10の力をあげている。第1は,1989年11月9日のベルリンの壁の崩壊である。のこりの9つは,インターネットの普及,新しいソフトウェア,アップローディング,アウトソーシング,オフショアリング,サプライチェーン,インソーシング,インフォーミング,共同作業テクノロジーである。これらは,現在も重要な技術である。それらは,分断されたさまざまな要素をつなぐのに役立っている。
フラットな世界と分断の世界は,正反対といってよいほどちがう。他方,世界をフラット化した10の力のうち,ベルリンの壁崩壊をのぞく9つは,広い意味で技術である。それは,現在も健在である。その後に生成発展した新しい技術とともに,分断の世界において,分断されたさまざまな要素をつないでいる。フラットな世界と分断の世界は,共通の通底技術をもっているのである。
[参考文献]
- Thomas L. Friedman, The World Is Flat: A Brief History of the Twenty-first Century, expanded edition, 2007. 『フラット化する世界』(増補改訂版),上下,日本経済新聞出版社,2008年
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