世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
どうなる2026年?
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2025.12.29
昨年末に本コラムで「どうなる2025年?」を寄稿させていただいた時,自分の予測能力の無さを痛感して予測より注目点を中心にお話ししました。今年も注目点を中心にお話しようと思います。
下に示したIMFの世界経済見通しも,注目すべきは2026年の予測より,過去と比較した時の現在の立ち位置であると捉えています。
IMF世界経済見通し(2025年10月)(単位%)
- 2003-07平均 15-19平均 2022 2023 2024 2025 2026
- 世界
- 実質GDP(前年比) 4.9 3.4 3.8 3.5 3.3 3.2 3.1
- 貿易量(前年比) 8.2 3.2 5.8 1.0 3.5 3.6 2.3
- 先進経済
- 実質GDP(前年比) 2.8 2.2 3.0 1.7 1.8 1.6 1.6
- 失業率 6.2 5.7 4.5 4.4 4.6 4.7 4.7
- 消費者物価(前年比)2.2 1.2 7.3 4.6 2.6 2.5 2.2
- 総投資(GDP比) 23.2 22.2 23.4 22.5 22.2 22.1 22.0
- 政府財政収支(GDP比)−2.4 −2.6 −2.9 −4.9 −5.0 −4.6 −4.9
- 政府総債務残高(GDP比)74.3 103.7 109.3 108.5 109.1 110.2 111.8
- 新興・発展途上経済
- 実質GDP(前年比) 7.3 4.4 4.3 4.7 4.3 4.2 4.0
- 総投資(GDP比) 27.5 31.9 32.9 32.1 31.6 30.8 31.1
- 政府財政収支(GDP比)−0.3 −3.9 −4.8 −5.1 −5.5 −6.1 −5.9
- 政府総債務残高(GDP比)41.4 49.5 62.9 66.9 69.0 72.7 75.8
過剰投資の調整を迫られる新興経済
世界経済は,2020年にコロナ禍による急激な成長率の落ち込みと,2021年にはその反動による急成長を記録しました。その後,上の表に見られるように,新興・発展途上経済の成長率が概ねコロナ禍前の2015~19年の平均に戻った一方,先進経済の成長率は戻っていません。ただ,先行きは,新興・発展途上経済の方が下振れリスクが大きそうです。2003~07年に世界経済が高成長を遂げた時に比べて,先進経済では総投資のGDP比がやや下がったのに対し,新興・発展途上経済では総投資のGDP比率はむしろ上昇し,足元まで高水準で推移してきました。その一方で経済成長率は大きく下がり,過剰投資が生じていると見られます。2022年以降,投資比率は下がりつつありますが,さらなる調整が必要でしょう。新興・発展途上経済での投資削減によって,世界経済の成長率が一段と低下する可能性があります。
雇用喪失,需要不足の時代を迎えるのか
先進経済では,全体的には過剰投資は生じていないようですが,投資の内容に注目した時,AIなどの知的財産への投資の増大が何をもたらすのかが注目されます。先進経済の失業率は,コロナ禍後にコロナ禍前よりも低い歴史的低水準まで下がりました。一方,インフレ率は,供給制約の高まりによって,一時急上昇しました。企業は人手不足やコスト上昇に対して,AIなどへの投資を増やすことで生産性向上に努めているようです。ただ,AIへの投資は,企業にとって必要人員の減少によるコスト削減にはなっても,新たな需要を創出する効果は小さいと見られます。人手不足,物価高騰は局所的,一時的なものに留まり,雇用喪失,需要不足の時代を迎えるのかもしれません。
勢いを増す自国第一主義
昨年の「どうなる2025年?」で述べた自国第一主義の行方は,引き続き大きな注目点です。上に述べたように,新興・発展途上経済も先進経済も,抱えている問題は内在的なものであり,高率の輸入関税賦課や,国内産業の保護,外国人労働者,移民の排斥などで解決できるものではありません。また,上の表が示すように,足元の財政状況はコロナ禍前より悪化しており,財政刺激策発動の余地は限られています。しかし,その一方で市場原理,小さな政府,規制緩和,自由貿易などを重視する新自由主義も,2003~07年に世界経済が高成長を遂げた時のような輝きを失っています。結果的に,経済成長率の低下や雇用機会の喪失によって高まる国民の不満のはけ口を海外に求める傾向が,多くの国でさらに強まりそうです。
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