世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
人の国際交流なしの国際経営
(神戸大学 名誉教授)
2022.01.24
トランプ大統領(現在はバイデン大統領),ブレグジット,そしてコロナによって,世界は分断された。分断の状況での国際経営は,いかなるものであるか。ひとつの答えが見えてきたようである。その答えとは,「人の国際交流なしの国際経営」である。
ここでいう人の国際交流は,人々が物理的に国境を超えて移動することである。オンライン,zoom,テレワークなどによって,人の国際交流と似たようなことが可能になっているが,それらとは異なり,リアルに人間が国際交流をすることである。
米パソコン大手HPの最高経営責任者(CEO),エンリケ・ロレスは,半導体の調達のために台湾の空港にプライベートジェット機できて,半導体企業の幹部と商談して,数時間の滞在で去る(日本経済新聞,2021年3月16日,以下,日経3月16日)。
大手エレクトロニクス企業の部長級の人が,わたくしへの年賀状(2021年1月)に,上海空港に2時間滞在の出張をしたと記していた。
分断は,国際経営にサプライチェーンの問題を生んでいる。トヨタは来月生産4割減(日経8月20日)。部品不足のための生産減,半導体問題(日経8月21日)。
分断の問題状況への対応策は2つある。第1はオンライン経営と遠隔操作,第2は経営アーキテクチャ革新(拙著『国際経営』第5版,300ページ)。
第1のオンライン経営と遠隔操作の事例には,リクルートの社長が米国テキサス州オースティン(居住・在席)から指揮を執る(日経ビジネス,2021年1月25日号)。また,東京エレクトロンの遠隔保守(日経2月18日)がある。2019年までは毎月約1千人が顧客工場に出張していたのが,2年後の現在,日本からの海外出張はほぼゼロである。コマツでは,海外子会社の幹部を日本に集めていた会議をオンラインに切り替えている。(日経3月16日)
第2の経営アーキテクチャ革新としては,カンバン方式の見直しがある。日本自動車部品工業会の会長が「(在庫を極力持たない)カンバン方式は見直す必要がある。」という。(日経12月22日)いまや,ジャストインタイムからジャストインケースに変化しているのである。(日経8月20日)
さて,ヒト,モノ,カネ,情報の国際交流は,分断によって変化している。
- ヒト:ほぼゼロになる
- モノ:従来と大差なし
- カネ:従来と同じ
- 情報:従来と同じ
人の国際交流なしの国際経営は,コロナの前には考えられなかった。人を通じての現場指導,技術移転,これが日本企業の国際経営の特徴とされていた。いまや,人の国際交流なしの国際経営に変わってしまったのである。
この変化が,2年足らずのうちに生じたのである。
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