世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
オンライン勤務で日本的経営の進化を
(神戸大学 名誉教授)
2020.07.06
増えるオンライン勤務
コロナの流行とともにオンライン勤務(テレワーク,リモートワーク,在宅勤務などともいわれる)がふえている。
雇用制度,在宅前提に。ジョブ型で評価(資生堂),在宅専門の採用(シフト)。(日本経済新聞,2020年6月8日)
日立が「半分在宅」を新常態に,NTTグループも追随。(日経ビジネス,2020年6月8日)
欧州,在宅勤務が標準に,独英,法制化の動き(日本経済新聞,2020年6月13日)
在宅勤務権(自宅で働くことを権利として保障),ドイツ,英国,フィンランド,オランダ(日本経済新聞,2020年6月13日)
大学や学界でも同じような動きがある。大学・大学院の授業はオンライン授業になり,学会はオンライン学会になる,など。
従来の在宅勤務がいっせいにオンライン勤務に変化したような印象があるが,実はオンライン勤務は多くない。ある調査によると,オンライン勤務をするのは2−3割の人だという(リクルートワークス社“Works”誌160号,pp.6−8,日経BPムック“アフターコロナ”,p.161)。
いわれてみると,コープ,スーパー,百貨店,家電量販店などはオンライン勤務でないし,理髪店,歯医者,水道管の工事,ゴミ収集車,宅配便,郵便配達,物流トラックなどの人たち,それにバス,地下鉄,鉄道,航空機の運転手や乗務員は,オンライン勤務でない。さらに,製造企業の工場も,オンライン勤務でない。
従来の在宅勤務と新しいオンライン勤務は,均等に分布しているのでなく,まだら模様になっているのである。ここでは,在宅勤務がいっせいにオンライン勤務に変わったと思われるオフィス,それも大企業のオフィスにしぼってみていくことにしたい。
オンライン勤務による日本的経営の創造的破壊
ドイツ連邦銀行(中央銀行)のワイトマン総裁は週1回しかオフィスに出てこない(日本経済新聞,2020年4月15日)。黒田日銀総裁は,オンライン勤務できるだろうか。
「昭和32年に大学を出て信託銀行に入社した。……社内会議の多さにまず圧倒された。……ドイツ銀行のデュッセルドルフにきてみて,私は,社内会議がまるでないといっていいほどなのにまず驚かされた」(吉越秀次「ビジネス社会に見るドイツ」,pp.72-73)。今から60年以上前の話である。このことから,ドイツにはオンライン勤務のDNAがあり,日本には「会議指向性の強さ」(吉越)という反オンライン勤務のDNAがある,といえるのではないか。
じつは,日本の要人にもオンライン勤務をこなしている人がいる。三菱ケミカルホールディングスの小林喜光会長は4月7日の緊急事態宣言の直後から1か月以上,東京・丸の内の本社に寄りつかなかった。決算取締役会から自身が議長を務める政府の規制改革推進会議まで,すべて自宅の書斎からリモートで参加し,仕事は円滑に進んだ(西條都夫,日本経済新聞,2020年5月18日)。
ところで,日本的経営はオンライン勤務に適合的でない,つまり,両者は相性がよくない。「テレワークだと仕事のプロセスや努力を評価しづらい。『何をしたのか』という成果重視の評価に傾きやすくなる」(小林祐児,日本経済新聞,2020年4月17日)。
オンライン勤務との相性の悪さを示す日本的経営の特徴には次のようなものがある。結果だけを評価するのではなく,インプットやプロセスも評価する(前述)。空気を読む。会議が多い。社内セールス,社内政治が大切。個人よりも集団(チーム)を重視。残業が多い。以心伝心のコミュニケーション。報連相(報告・連絡・相談)。融通無碍,など。
世界のトレンドはオンライン勤務の方向である。
欧州では,先にみたように在宅勤務が標準になりつつある。米国では,企業主導で在宅勤務の定着が進んでいる(コロナ禍が歴史を加速,デジタル革命;日本経済新聞,2020年6月8日)。
ビル・エモットによれば,新型コロナの流行はデジタル化を加速し,日本型労働を変える。
日本の経営者や学者たちは,長時間労働や過度な残業がまん延している状態を解消し,働き方と組織文化を変える必要性について論じてきた。しかし,これは難しい課題だ。コロナの流行がこの難題を解決してくれる(注:最後の文章は筆者が追加)(日経ビジネス,2020年6月15日p.78)。
コロナショックが収束すると,もともと日本的経営と相性の悪いオンライン勤務は減っていく。そして,従来の日本的経営が復活してくる。これでは,世界のトレンドに逆行することになる。コロナのおかげで,オンライン勤務が定着して,日本的経営が進化した。これを期待したい。
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