世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
シェール革命は続くのか
((株)東レ経営研究所 産業経済調査部長 兼 チーフエコノミスト)
2020.10.26
シェールオイルは底打ちへ
シェールオイルの生産が底を打ったようだ。米国EIAのDrilling Productivity Reportによると,2019年11月には日量915万バレルの生産を記録していたシェールオイルは,新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で原油の需要と価格が大幅低下して2020年4月には同841万バレル,5月には同688万バレルまで落ち込んだ。だが,6月以降,欧米などでの経済活動の再開を受けて,原油需要が上向きとなり,油価(WTI)も1バレル40ドル台まで回復したことがシェールオイルの生産の底打ちにつながったようだ。6月には日量745万バレル,7月には同777万バレル,8月には同793万バレルまで回復した。
ただシェールオイルの生産の先行きは不透明である。欧州などで新型コロナの感染再拡大が現実のものとなるなかで,経済活動に影響を与えるとみられるからだ。油価も6月以降10月下旬まで概ね40ドル台前半のボックス圏での推移となっており,一段と上昇する気配がない。実際,9月には同生産も日量790万バレルと8月からやや低下している。シェールオイルの生産がコロナ禍前の水準に戻るには2021年以降になるとみられる。
脱炭素社会への移行がシェール需要拡大の障害に
シェール革命の進展は二つの前提に支えられている。一つは化石燃料・原料への需要が続くこと,もう一つは中国など新興国の旺盛な需要をあてにできることだ。
だが,現在,二つの前提が揺らいでいる。まず脱化石燃料の動きが急ピッチで進んでいる。7月にEUで合意された欧州復興基金は,その目的の一つとして脱炭素社会への移行を進めることでコロナ禍からの復興を目指すとしている。また欧州の石油メジャーであるBPは,8月に再エネなど低炭素エネルギー投資について年間50億ドルとこれまでの10倍に引き上げるとしており,9月に発表した「エネルギー見通し2020年版」の中では,「急速シナリオ」や「ネットゼロシナリオ」で原油需要が既にピークを越えているとしただけでなく,「標準シナリオ」でも原油需要は当面横ばいが続き,その後緩やかに低下するとしている。
中国も2021年からの第14次5ヵ年計画では地球温暖化防止に重心をシフトするとみられ,EV等の新エネルギー車の普及を加速させるとみられる。こうした脱炭素社会への移行の動きは,他の地域にもいずれ広がるとみられ,化石燃料であるシェールオイルへの需要にも影響を与えるだろう。
中国の成長戦略の変換に注意必要
もう一つは米中対立の激化である。既に米中が互いに関税を賦課してきたが,シェール関連の製品,具体的には原油や天然ガスや石油化学製品については米中直接の取引は縮小したものの,両国が輸出先や輸入先を変更することでカバーされていて大きな支障は生じていないように見える。ただし,米中対立の長期化は先行き不透明感を増すことにつながり,世界経済と原油需要に影響を及ぼすことは言うまでもない。
また中国の成長戦略の変化にも注目すべきだろう。5月に当局は中国国内の経済成長に軸足を置いた「双循環戦略」を明らかにしている。こうした経済政策の変換は,中国国内の設備投資戦略にも影響を及ぼす。実際,2019年のエチレンプラント増設計画は,18年時点の同計画から倍増させ,1,800万トンを超えている。こうした石油化学製品の生産設備の増強が中国国内で進んだ場合,輸出された米国のシェール由来石油化学製品は行き場を失う。さらに「一帯一路」に関係する地域が中国に原油供給することでシェールオイルが締め出された場合,米国内での関連生産や設備投資に影響が出てくるだろう。
今後,シェールの開発が短期だけでなく中長期にわたって進むかどうか関心を払う必要がある。
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福田佳之
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