世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1908
世界経済評論IMPACT No.1908

インドのコロナ感染者急増も回復率が8割強に:9月末に感染者623万人,回復者は519万人へ

山崎恭平

(東北文化学園大学 名誉教授)

2020.10.05

 インドは,今年3月半ば13億人に及ぶ世界最大のロックダウンで新型コロナウィルス感染症対策に乗り出した。4月中旬からのロックダウンの段階的な解除後感染者が増え始め,特に8月以降感染者数の急増が続いている。感染者総数は8月7日に200万人を超え,同23日に300万人,9月4日には400万人を突破して世界第2位のブラジルの感染者数を抜き,同16日に500万人,同28日に600万人を超え,700万人台に達している世界最大の米国に次ぐ感染者を抱える事態になった。このところやや減少傾向が見られつつも,9月には1日当たり9万人前後の感染者を数え,このままでは10月にも米国の感染者数を抜いて世界最大になるとの見通しも出ている。

 この感染者数の急増に比して,死者数は米国の21万人台やブラジルの14万人強に比して9万人台にとどまって,死者数は増大しつつも抑制されている。その要因は,感染者数に対して回復者数も急増し,9月19日には回復者数が443万人弱となり,米国の422万人強を抜いて世界最大となった。インドの感染者数に対する回復率は9月末で83%に達しており,感染者の8割強が回復している。また感染者に対する致死率(CFR)も1.5%程度に低下しており,その結果死者数が相対的に抑制されている。インドの保健・家族福祉大臣は,この成果は“trace,test ,isolate,treat”に代表される感染者の「早期発見,隔離と有効な治療方針」,また“mortality at minimum,recovery at maximum strategy”「死亡ミニマム,回復マクシマム戦略」によるものと,現在開会中の連邦議会で答えている。

 早期発見はPRC等感染者の検査数の増加に表れている。7月第1週には1日約23万件を検査していたが,第4週には50万件に増加,9月初めには100万件を数えるようになり,9月末の累計では7,400万件を超えてなお増加中である。政府は民間を含めて検査機関を1,800まで増設しWHO基準に沿って検査能力を高めてきたが,それでも米国の5人に1人の検査比率がインドでは50人に1人の割合に止まっているといわれる。検査数の増加は感染者数の増大をもたらしているが,同時に回復者も増加しているのは感染者に対する隔離や治療の効果であろう。感染者に対する回復者の回復率は,4月初めの7%台から6月半ばには50%を超えるようになり,現在は8割台まで高まっている。この回復率の上昇に伴って,致死率も3%強から現在は1%台に低下している。こうした指標の推移には,欧米先進国に比べて感染者や死者で60歳以上の高齢者の比率が相対的に低いこともあずかっているようだ。

 インドの場言,日本の報道では感染者の急増や感染者数の大きさが目立っている。しかし,人口大国に加えてまだ途上国故の国民の所得水準の低さや医療・保健施設の脆弱さの中で,政府や国民が新型コロナウィルス感染症対策を「未曾有の危機(unprecedented crisis)」として最大限取り組んでいる現実をもっと評価して良いのではと思う。しかも,自国の対策だけではなく近隣の南アジア地域協力のSAARC諸国に対して率先して対策協力を呼び掛け,150以上の国にマスクやPPE等医療資材や医薬品提供にも応じている。最近の現地紙タイムズ・オブ・インディアの報道では,インド政府はスーダン共和国やコンゴ民主共和国に対して女性隊員を含め2,000人余派遣している国連の平和維持活動(PKO)に,新型コロナウィルス感染症の専門家を派遣する計画である。また,9月の国連総会では,モディ首相が欧米や中国,ロシアだけでなく開発が進むワクチンの国内生産に力を入れ,国内だけでなく行き渡るのが遅れがちな後発途上国への提供を呼び掛け,WHOがこれを評価した。インドはジェネリック医薬品(特許期限切れ低価格医薬品)の世界的な生産拠点であり,既に多くの途上国に提供している実績がある。

 インドの新型コロナウィルス感染収束の見通しはまだ立っていない。最近は,都市部から医療環境の遅れた地方への感染増加傾向があり,頼みのワクチンの投与は来年になる見通しである。政府は感染症対策とともに経済再建を急いでいるが,再建に向けての規制緩和は感染症対策とその収束に結びつかない関係もあり,再建策を講じるタイミングは慎重さを要している。今2020/21年度第1四半期(4~6月)のインドのGDPはマイナス23.9%と発表されており,またADBの9月半ばの修正見通しでは年度でマイナス9.0%の経済成長を予測している。現モディ政権は第1期政権時にGDP5兆ドル経済を実現し米国,中国に次ぐ大国への夢を描いたが,インド経済は目下の新型コロナウィルス感染や最近の米中対立関係の影響を色濃く受けており,まずは感染問題の早期収束と経済再建が問われている。その行方は楽観できず容易ではないが,世界最大の民主主義国の取り組みは透明性や普遍性が高く,今後とも注目し期待して行きたいと思う。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1908.html)

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山崎恭平

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