世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
欧州「強権主義」中国を警戒,蜜月関係見直し
(駿河台大学 名誉教授)
2020.10.05
世界中を敵に回すような中国外交の強硬姿勢,いわゆる「戦狼外交」は,新型コロナウイルス感染拡大を機に一段と鮮明になった。習近平政権は,国家・共産党を挙げての武漢封鎖を含む徹底した新型コロナ感染封じ込めに成功したかにみえる。戦狼外交の先頭に立つ中国外交官らが攻撃は最大の防御とばかり,中国に対する欧米などからの批判を政治的圧力で抑えつけ,欧州の新型コロナ防疫対策を「稚拙」と非難したり,中国の医療支援(いわゆる「マスク外交」)への感謝を強制したりする強権的行動を繰り返す。
欧州では,このような中国の居丈高な姿勢に対する懐疑・不信が広く形成され,警戒心が一気に高まった。在ブリュッセル・シンクタンク欧州外交評議会(European Council on Foreign Relations)が本年7月に実施した世論調査によると,48%の欧州市民の中国に対する印象が悪化している。フランス市民が62%と最上位で,ドイツ市民48%,スペイン市民46%,イタリア市民37%などとなっている。
好戦的な戦狼外交,新型コロナ危機の渦中に中国政府がとった強権的な行動は,とりわけ香港での国家安全維持法の施行や新疆ウイグル自治区での少数民族への弾圧,あるいは南シナ海における軍事拠点化など,中国の国際的な評価に深刻なダメージを与える結果となった。米中対立が激化する中,中国は欧州との蜜月関係の維持に腐心している。9月初旬,楊潔篪共産党政治局員(外交担当),王毅外相の外交2トップが相次いで異例の訪欧,つなぎ留に懸命だが,香港や新疆ウイグル自治区の現状など欧州が重視する人権問題が壁になって,成功したかどうかは微妙である。
9月14日のEU・中国首脳会談では,フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長,ミシェル欧州理事会常任議長,メルケル独首相からは香港や新疆ウイグル自治区の人権問題で「深い懸念」が表明された。また,欧州側は南シナ海で進める軍事拠点化の自制も求めた。欧州の対中認識は厳しさを増している。これに対して,習近平主席からは「香港と新疆ウイグルの問題は本質的に中国の国家主権と安全,統一の確保に関わるものである」として,他国の介入は「内政干渉」だと強く反発したという。
ここ2年ほどの間に欧州の中国に対する見方が大きく変わろうとしている。この変化は新型コロナ感染拡大前から始まっていたが,ここへきて加速している。欧州委員会は昨年3月,「中国は(経済・貿易・先端技術などの分野で)競争相手」と再定義し,対中戦略を軌道修正した。新型コロナ危機のさなかに中国がとった緊張を高めるような強権的行動が大きく影響しているといえよう。その少し前までは,欧州が中国を「体制上の競争相手」と位置付けることなど想像できなかったと述べる欧州の中国専門家もいる。
欧州は,これまでの経済偏重の中国との蜜月関係について,戦狼外交や香港・ウイグル問題を機に見直しする動きを強めよう。中国と最も緊密な経済関係をもつドイツでさえも方針転換に踏み切った。法の支配,人権,表現の自由といった民主主義に基づく考えは,欧州の根幹をなす基本的な理念で譲れない一線である。中国の強権的な行動によって,欧州として容認できる限度を中国は踏み越えつつあるとみている。
中国は今後も緊張を高める行動を継続・加速させるだろう。もはや問題は,中国の行動をどうすれば変えられるかということではない。中国は当分変わらないことを前提に,欧州は結束してどう行動すべきかをということである。
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田中友義
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