世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1755
世界経済評論IMPACT No.1755

コロナ以後を見据えたビッグデータ時代への対応

武石礼司

(東京国際大学 教授)

2020.05.18

 筆者の研究対象とするエネルギー分野において,多様なデータを次々と取得し,集積することが可能となったことで,大きな変化が生じている。

 こうした大きな変化は,様々な分野で卑近に生じている,例えば,今回のコロナ禍においても大きな問題となったのは,政府・厚労省からのデータの開示が少なく,「緊急事態宣言」の対象地域で人との接触機会を8割削減しろと言われても,データで示されれば理解できるものを,感染者数の増減のみを示されたのみでは,どのようなモデルではじいており,7割では足りず,8割との論拠が示されていないという点であった。

 データを開示して,そのデータに基づき,いくつものモデル計算が行われていくと,医療関係者ばかりでなく,IT,数学,工学・理学系の人々も含めて,様々な分野の専門家が議論に加わることができて,納得ができるまでネット上で議論が行われたに違いない。

 医療関係でも取得できるデータ量はセンサー技術の長足の進歩により実現されており,患者一人につき1秒間に千を超えるデータを取得し蓄積しながら,その膨大なデータを即時に解析していくことが可能となっている。同じく,金融システムはもちろんのこと,エンジン・発電機など様々な機械の運転状況を監視するために,多くのセンサーを設置して診断していくシステムも,広く普及している。例えば,風力発電設備においても,全国各地に設置された発電設備を,国内の1カ所で集中監視することは普通に行われている。さらに,世界各地に導入したシステムを世界の1カ所に集めて監視することも行われるようになってきている。

 それほど多くのデータを集めて分析ができるのか,役立つデータが得られているのかという点に関しては,データをほぼ無限大に集めることが可能となるほどメモリー価格が下がったことで,サンプルを集めるのではなく,得られるデータを全部集め続けることが可能となっている。全部のデータを集めることとすると,サンプルの頑健性に頭を悩ませることなく,ある一つの現象とともにもう一つの現象が生じていれば,原因と結果という「因果関係」を考えるのではなく,両方の現象が生じるという「相関関係」のみで直ぐに行動に移して対応すればよいことになる。

 こうした事例は,例えば,アマゾンの販売方法を見れば明らかである。アマゾンは,もちろん私達の購入記録をすべて集めており,次に購入を勧めるべきものをかなりの確度で選び出すことが可能となっている。ただし,その勧め方は,これを因果関係に沿った理由付けを必要とはしておらず,単に勧めることが多くの事例から見て買ってもらえる場合が多いという相関関係が重視されて勧めており,そして成果を上げている。

 さらに,スーパーのウォールマートは,販売や在庫の動きをすべてデータとして蓄えるとともに,そのデータを取引業者に開示しており,スーパーの店舗をあたかも市場として開放していることになる。納入業者は,巨大スーパーの売れ行きと在庫を見つつ,商品の納入に務めることになる。

 様々なSNS(Google,Yahoo,LINE,Instagram,Facebook等)さらにZoomなどの会議システムにおいても,使用にあたっては,データを集積して分析することを私達は容認してこれらの無料で使用できるシステムを使っている。

 データ収集がほぼ無限に可能となった時代においては,収集を行おうとする段階で止めることは最早無理であると,世界的に認識されるに至っている。中国においては国家管理でのデータの吸い上げが行われており,コロナ禍からの脱却においても,顔認証などあらゆる個人データが活用されたが,このように,国が管理を進めるか,また,商業利用を主目的としてSNS等でデータを集積するかを問わず,データは収集されている。データを集めたあと,その利用の段階で公平性をいかに確保するか,プライバシーの問題を何処まで保護し,開示はどのような場合に何処まで誰の権限で認めるか,その制度のあり方が昨今議論されているところである。

 コロナ禍で言えば,匿名性に一定の配慮をしつつ,データ開示をできる仕組みが日本の中に不足していたことは明らかである。

 当方の研究分野で言えば,電力関連データ(送電,消費等)の開示,気象データの開示(気象庁データ)など,市場を活性化するデータを開示しながら競争を促すことで,世界と競う産業の育成が可能となる。

 技術の進歩により膨大なデータが集まるようになった時代に対応した,データ開示の考え方を整理し,今回のコロナ禍で,様々な意見を取り入れることが出来なかった状況を反省し,国を封鎖して取り敢えず感染を抑えたのは弥縫策であって,データを集め,「データは(一定の配慮をしつつ)開示」し,周知を集めて政策・対策を練るとの方向性を,国をあげて確立する必要がある。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1755.html)

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