世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
ポスト・モダン経営と新型コロナウイルス・パンデミック
(元立命館アジア太平洋大学 教授)
2020.04.20
利他性と接続性を最重要視するアジア経営を,筆者は日本企業と在アジア日系企業に,勧めている(鈴木康二「接続性と利他性のアジア経営」(2018年『アジア経営研究』24号,pp.185-198)。この考えを一帯一路構想下での日本企業の経営戦略に適用し,最近はポスト・モダンのアジア経営を主張している。中国発の新型コロナウイルスの世界的大流行をこの考えで見ると,以下が言える。
(1)グローバリゼーションを経済成長・経済発展の側面から捉え過ぎてきた
社会システムは,経済,政治,法律,教育・宗教・家族の4構造からなり,各々適応,理念の実現,統合,潜在的パターンの維持・社会的緊張の創出と緩和という機能を持つ(AGIL分析)。AGIL分析では環境変化のダイナミズムに対応できないとしてルーマンは,システムと環境の差異は,心的システムと社会システムのコミュニケーションにより自己の内外を区分するとした。政権獲得・維持を政治理念とし,国民に経済的豊かさを実感させるのが第一だとして,経済成長・経済発展のためには経済グローバリゼーションが必要とのメッセージが流され過ぎた。法律と教育・宗教・家族の2構造が軽視され,個々人の心的システムの側から社会システムにコミュニケーションしない形のコミュニケーション増加が軽視された。途上国の中で閉じ込められていたウイルスや害虫がグローバリゼーションで全世界に拡がるリスクも軽視された。
(2)ソサイエティ5.0の利他性と接続性
ソサイエティ5.0(超スマート社会)は日本の科学技術基本法の第5期キャッチフレーズだ。AIやIoT,ロボット,ビッグデータ等の革新技術を産業や社会に取り入れた未来社会を指す。ソサイエティ5.0は,軽視された社会システムの法律と教育・宗教・家族の2構造と,個々人の心的システムの側からのコミュニケーションの把握に使える。
政府による外出自粛要請は,「私が神」だと考える個人が増えている神無きリスク社会では効かない。政府が信頼されていないからだ。GPSビッグデータを活用し東京の繁華街別の夜の人出の増減を日々示せばよい。そしてシェイム・エフェクトによる法律の統合機能を促進させる。「不要な外出は恥ずかしいから止めよう」とのキャンペーンだ。都市封鎖といった厳しい措置を採るよりましとの脅威や罰金による規制は,「私が神」とする人々の反発を招くだけだ。
ソサイエティ5.0によるテレワーク・ITを使った自宅学習やドローン配送より重要な感染防止対策がある。リスク社会では,社会的問題の解決に必要な科学的知識が複雑化し専門家の知識が必要だが,解決策は政治家が決める,との問題がある。このリスク社会の特性を利用し,科学的証拠がないとして,蓋然的にほぼ正しい科学的知見を政権維持のため無視する政治家が頻出する。武漢発の新型コロナウイルスの発生を12月中旬に知っていたにも拘わらず公表させず,WHOへの通知を一か月遅らせた中国政府が典型だ。彼らにシェイム・エフェクトは効かない。公害PPP原則の応用と,アジア通貨危機時のセイフティネットのための先進国による金融支援の経験の応用で,途上国での感染拡大防止負担を中国政府に要求するのだ。先進国政府も出すが中国政府はより多く負担せよとの要求だ。
利他性と接続性のアジア経営は,アジア途上国に国際競争力あるナショナリズムを推進してもらおう,日本企業はその支援者になる,とする経営戦略だ。途上国で感染拡大をさせないという利他性の発揮を中国の政府と企業がしない限り,一帯一路による自国への接続性を認めないとの主張が,自国民の健康と命を守ることになるとの考えを持つ首脳は途上国には少ないだろうが,アジア企業にはいる。日本企業はそのようなアジア企業をソサイエティ5.0の技術で探し出し,彼らと利他性と接続性のアジア経営をすればよい。ESGの中で保健・衛生重視の内外機関投資家に出資を持ち掛ければアジア企業も付いてくる。
欲望のエネルギーだけ持つ器官なき身体中を,具体的な主張を持つ複数のプレーヤーが,リゾーム型(地下茎)の器官で満たし,断層のある地層の中を進み,地上に花を咲かせる方が,一か所に根を張って幹を伸ばし枝葉で花を咲かせるツリー型(樹木,国民国家が典型)より妥当だ,とするのがポスト・モダン思想だ。心的システムの側からのプラスのコミュニケーションは,彼らを生産者・消費者としてではなく遊ぶ人と見ることにより生まれる。利他性と接続性の経営をする企業・機関投資家とその経営に共感する心的システムを持つ遊ぶ人が,複数のプレーヤーを構成する。新型コロナウイルス対策を契機に,機能的ではなく意味あるサプライチェーンが最適との考えで,ソサイエティ5.0の技術を使った支援がビジネスになる,との欲望のエネルギーが強い器官なき身体を構成できれば,ポスト・モダン文明を生き延びられる。機能のモダン文明は昨日の文明になっている。モダンの文明での協力は,ポスト・モダン文明ではお互いに支援するという考え方になる。
関連記事
鈴木康二
-
New! [No.3618 2024.11.18 ]
-
[No.3524 2024.08.19 ]
-
[No.3421 2024.05.20 ]
最新のコラム
-
New! [No.3627 2024.11.18 ]
-
New! [No.3626 2024.11.18 ]
-
New! [No.3625 2024.11.18 ]
-
New! [No.3624 2024.11.18 ]
-
New! [No.3623 2024.11.18 ]