世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
インドの法人関連税制改革が進展:配当分配税廃止と法人税引き下げ
(拓殖大学国際学部 准教授)
2020.02.24
インドの投資環境の課題の一つに配当分配税があるが,シタラマン財務相は2020年2月1日に発表したインド予算案で,同税を廃止する方針を示した。インド独特の税制である配当分配税が廃止されることで,今後は配当の支払側ではなく受取側に対する課税が行われていく見込みだ。また,モデイ政権は,2016年度以降,法人税を段階的に引き下げており,今回の配当分配税撤廃と併せ,インドの法人関連税制改革は一定の進展をみせ,インドの投資環境の改善につながると評価できる。
そもそも配当分配税とは?
配当分配税(DDT:Dividend Distribution Tax)は,1997年度にインドで導入された配当に対する税である。現在の税率は,基本税率に課徴金と健康教育目的税が上乗せされ,実効税率は20.56%となっている。通常,各国では配当は受取側に対して課税がなされるため,源泉課税の対象となるが,インドは配当の受取側に課税しない一方で,配当の支払側に対して,配当分配税を課税している。
外国子会社が進出している国から本国の親会社等に配当を支払う場合,通常は,各国間の租税条約に基づいて,源泉課税が行われる。例えば,日本とインドの場合,両国の租税条約では配当に対する源泉税率は10%が上限と定められている(日印租税条約第10条)。しかし,配当分配税は異なる税との位置付けであるため,その上限を超えてインドは高率の配当分配税を課税してきた。また,国境を超えて配当が支払われる場合,受取側の国では,支払側の国で徴収された源泉課税分の控除が可能となるが(但し,日本では外国子会社配当益金不算入制度により,一定要件のもと,受取配当の95%相当額を益金不算入とすることが可能),配当分配税では外国税額控除の対象とならないと考えられ,インドに進出した外国企業の税負担を重くする要因となっている。
このインド独特の配当分配税について,シタラマン財務大臣は2月1日に発表した予算案の中で配当分配税は投資家の税負担を増大させ,外国投資家の収益率を低下させているとして,配当分配税を廃止し,今後は伝統的な配当税制を採用する方針を明らかにした。
インドの重たい法人税負担が一定の改善
配当分配税を撤廃する背景には,2019年に経済成長が大きく鈍化する中,投資の活発化を意図していること,中でもMake in Indiaを掲げ,製造業の振興を図るモデイ政権が直接投資の促進を企図していることがあると指摘できる。
インドでは,この独特の配当分配税に加え,そもそも法人税負担がアジア主要国と比較して重たい状況にあった。モデイ政権が2016年度から法人税の引き下げ(後述)を開始する前,インドの法人税の実効税率は34.61%(2015年度,基本税率30%に課徴金等が追加)であり,高い法人税を負担した上に,さらに配当を行う場合には高率の配当分配税が課されていた。
インドの重たい法人関連税負担は,インドへの直接投資を阻害する一因と考えられている。日本企業がインド市場を開拓する場合,日本や東南アジア等の拠点からの輸出かインドへの直接投資かの選択を検討することとなるが,相対的に重たい法人税と配当分配税の存在によって,輸出による市場開拓を選好させている可能性が考えられる。
こうした中,モデイ政権は2016年度以降,法人税の引き下げを行ってきた。2015年度予算案において,2016年度以降,法人税率(基本税率)を30%から25%に引き下げる方針を表明し,年間売上高で一定額以下の企業を対象に基本税率を25%(実効税率は29.12%)とし,同売上高の水準を段階的に引き上げてきた。2019年度予算案では,年間売上高40億ルピー(568万ドル)以下の企業まで対象を拡大していた。これにより,2019年度予算案によると,99.3%以上の企業が減税の対象となるとしている。
さらに,2019年9月には景気刺激策として,一定要件(控除やインセンテイブを利用しないこと)を満たす企業を対象に法人税の基本税率を22%(実効税率は25.17%)に引き下げるとともに,加えて新規設立(2019年10月1日以降)される製造業分野の企業(控除やインセンテイブを利用しないこと,2023年3月までに生産開始することが条件)に対して,法人税の基本税率を15%(実効税率17.16%)とする政策も打ち出している。こうした要件を満たさない企業については,基本税率30%(実効税率34.94%)が課税される。
こうした法人税の引き下げに加えて,今回の予算案で打ち出された配当分配税の廃止によって,インドの法人関連税制をめぐる投資環境上の課題が一定程度,改善されつつあると評価できる。
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