世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1573
世界経済評論IMPACT No.1573

「一帯一路」に揺れる欧州:習主席訪欧が引き起こした衝撃

田中友義

(駿河台大学 名誉教授)

2019.12.16

 中国の習近平国家主席は本年3月,イタリア,フランス,モナコの3カ国を訪問したが,昨年11月のポルトガル,スペイン歴訪に継ぐもので,欧州との関係を重視する姿勢を鮮明にした。歴訪の最大の目的はイタリアと中国主導の広域経済圏構想「一帯一路」の協力に関する覚書に署名することであった。先進7か国(G7)参加国との覚書の締結は初めてのことであり,中国への警戒感を強めているフランス,ドイツ,対中関係が緊張している米国が不快感をあらわにした。対米関係で苦境に立つ中国にとって大きな外交的成果となった。

 EU諸国の中ですでに「一帯一路」覚書を締結しているのは15カ国で,イタリアは16番目になるが,EUの中核国の一つであるイタリアの覚書調印の欧州に与える衝撃は大きい。「一帯一路」構想は,相手国の返済能力を超えた過剰債務を生んでいるとの批判(「債務のわな」)が世界中で相次いでいる。EUでも債務危機に陥ったギリシャがEU域外からの投資マネーを求めて中国と「一帯一路」覚書を交わし,国内最大のアテネ郊外のピレウス港湾の経営権が中国企業に譲渡されたが,軍事利用されかねないとの懸念が強い。

 イタリアや中・東欧諸国が,財政規律や強権政治を巡り,EUを主導する独仏や欧州委員会との対立を深めていることもEUの結束を乱している要因の一つといえよう。港湾や空港などの重要インフラ施設で中国企業による買収が進めば,周辺国も含め,安全保障に影響が及びかねない。次世代通信規格(5G)ネットワーク整備についても,中国通信機器大手,華為技術(ファーウェイ)などの中国企業の製品を政府調達から全面排除するかを巡って,EU加盟国の対応で足並みがそろわず,欧州委員会は一律ではファーウェイ製品の排除を求めない方針を示している。

 習主席の歴訪直前に開催された欧州理事会(EU首脳会議)で,EUとしての統一的な中国戦略の課題と見直しが議論された。フランスのマクロン大統領は首脳会議後の記者会見で「EUが中国に甘い認識でいられる時代は終わった」「中国は欧州の分断に付け込んでいる」とEUの結束を呼びかけた。欧州委員会や欧州議会などEUの一部には「EUを分断して支配する(divide and rule)」ための深謀遠慮だとの批判が根強い。

 その根拠として,2016年7月のオランダ・ハーグ裁判所の中国の「九段線」による南シナ海領有権を認めないという判決に対して,ギリシャとハンガリーが強く反対し,EUとして中国への名指しの批判が行われなかった一件がある。また,EUが2016年6月に,中国の「市場経済国ステータスMES(Market Economy Status)」を承認しないとの決定に対して,ハンガリーが承認した件があった。「一帯一路」構想に対する欧州側の評価としては,「脅威論」と「楽観論」が交錯しているのが実態であるが,概して,脅威論に対しては西(欧)高東(欧)低の傾向がみられるという。

 フォンデアライエン新欧州委員長率いるEU新体制は12月1日,当初の予定から1カ月遅れで発足した。英国のEU離脱,移民難民問題やポピュリズム(大衆迎合主義)の台頭で結束が揺らいでいるEUをどう立て直すのか。今後の中国戦略の展開についても結束を図らなければならない。就任早々,フォンデアライエン氏の手腕が問われることになる。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1573.html)

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