世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3626
世界経済評論IMPACT No.3626

「またトラ」に身構える欧州,勢いづく右派勢力:第2期トランプ米政権の誕生

田中友義

(駿河台大学 名誉教授・ITI 客員研究員)

2024.11.18

 ドナルド・トランプ氏の米大統領復活(「またトラ」)に欧州各国は戦々恐々としている。今後4年間にわたって展開される「自国第一主義」のトランプ外交によって,欧州の政治・軍事・経済・社会は翻弄され,予測できない方向に向かう恐れがあるからだ。トランプ氏の再選により,欧州は大きな転換点を迎えている。

 トランプ政権第1期の欧米関係は,報復的関税引き上げ措置の応酬などによる緊張の高まりで,大きな亀裂が生じた最悪な状況であった。トランプ氏の「米国第一主義」と速やかに決別し,多国間主義,民主主義,人権尊重,法の支配などの普遍的な価値を欧州と共有し,中露などの強権主義に対抗するジョー・バイデン氏の大統領選挙戦での勝利を願った。

 2020年12月,バイデン氏の勝利を受けて,欧州各国首脳らは当時のツイッター(現「X」)や声明,あるいはバイデン氏との電話会談などで次々と祝意を表明した。

 エマニュエル・マクロン仏大統領は「われわれは時代の課題に立ち向かうために強くなれる。われわれの地球を守るために結束しよう」とツイッターに書き込んだ。さらに,バイデン氏との電話会談で,温暖化対策の国際的枠組みである「パリ協定」へ復帰表明を称賛すると述べた。ドイツのアンゲラ・メルケル首相はバイデン氏との電話会談で「ドイツは(独米関係の深化と欧米同盟の再活性化に対して)積極的に責任を果たしていく」との意欲を示した。

 欧州委員会ウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は,欧州議会での演説で「米国が戻ってきた。われわれは米国の新しい夜明けの時を待ち望んでいた。最も古くからの最も信頼できるパートナーと新たなスタートに向けて,用意ができている」とバイデン氏の大統領就任を歓迎した。

 4年後の2024年11月,欧州の首脳らは,2期目のバイデン政権の継続を願っていたに違いない。大統領選の最終段階でカマラ・ハリス副大統領に候補が交代したことは想定外のハプニングであった。ドイツのオフラ・ショルツ首相はバイデン氏の「再選を望む」と発言し,トランプ氏不支持,民主党への支持を鮮明にしていた。

 しかしながら,欧米メディアの予想は大きく外れて,トランプ氏の大勝利に終わった。欧州首脳らは,トランプ氏にXや声明,あるいは電話で祝意を表明したが,バイデン政権誕生の時のような高揚感はない控えめなものだった。トランプ氏は2025年1月20日の大統領就任式を終えるや,すぐさまバイデン政権の4年間の業績(レガシー)をリセットするだろう。不法移民排斥,「パリ協定」からの再離脱,ウクライナ支援の削減,大西洋条約機構(NATO)同盟関係の見直し・防衛費の増額等など。

 マクロン氏は「あなたの第1期在任中のように,共に働く準備ができている。互いの信念,敬意と野心を持って,より多くの平和と繁栄のために働こう」とコメントしている。マクロン氏は欧州の政治主導者として,メルケル氏と共に,外交の場で,第1期のトランプ政権と渡り合ってきた。しかし,2024年7月の国民議会選挙で大敗して少数与党に陥ったため,苦しい政権運営を迫られ,マクロン氏の影響力は弱まっている。

 もう一つの主導国ドイツのショルツ氏は,ハリス民主党候補を支持すると旗幟を鮮明にしたためトランプ陣営から猛烈な反発を受けたが,トランプ氏の勝利が確実となったため祝意の声明を出した。「ドイツは米国にとって信頼できる大西洋を挟んだパートナーであり,対立するより協力する方がはるかに多くのことを達成できる」と呼びかけた。声明発表直後,3党連立政権内の対立から自由民主党が離脱したため,ショルツ政権は崩壊して,政局は混迷している。

 欧州を主導する仏独の連携がうまくいっていない中,トランプ氏といち早く電話で言葉を交わした欧州首脳の一人がハンガリーの極右オルバン・ビクトル首相である。また,自身のXに「政治史上,最大のカムバックだ。世界にとって必要不可欠な勝利だ」と書き込み,トランプ氏に祝意を表明した。

 オルバン氏は「反移民・難民」の旗幟を鮮明にし,人道的な対応を求めるブリュッセルのEUエリート官僚への攻撃を強めている。こうした「反移民」「反エリート」の主張は欧州の大きな政治潮流になりつつあり,2024年6月の欧州議会選挙でフランスの国民連合(RN),ドイツの「ドイツのための選択肢」(AfD)などの右翼勢力が大きく台頭したことは周知のとおりである。これらの右翼勢力が「反移民・反エリート」を主張するトランプ氏の勝利を大いに祝福したことは当然である。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3626.html)

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