世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1556
世界経済評論IMPACT No.1556

中国の不良債権問題,資本流出,人民元の国際化:中国人民銀行(PBOC)へのヒアリング調査

岩本武和

(京都大学公共政策大学院/経済学研究科 教授)

2019.12.02

 前回に引き続き,2019年2月に行われた中国人民銀行(PBOC)へのヒアリング調査の続編を記録しておきたい。テーマは,中国の不良債権問題,中国からの資本流出,人民元の国際化などである。

【不良債権問題】世界金融危機後,中国政府は景気回復のために4兆元の景気刺激策を導入し,それによって経済は回復したものの,シャドーバンキングの問題やそれに関連した不良債権問題を発生させた。ここでの第一の問題は,第一に,レバレッジ比率が全体的に飽和状態に達しているということ,第二は,シャドーバンキング問題である。

 過剰債務を解消するためには,協力をする必要があり,それが戦略的な面での速やかな発展につながる。中国のレバレッジ比率,つまり総負債額をGDPで割った値は,最近3年の間250%で一定している。これらのレバレッジ戦略を支えるために我々が実施した主な取り組みの中でも,最も重要なのが金融政策である。

 例えば2008年の4兆元景気刺激策においても,財政政策だけではなく,金融政策も重要な役割を果たしてきた。最近の景気後退圧力に対しても,PBOCの金融政策に重点が置かれている。

 次に重要な点は,我々が国内の銀行に規制をかけているという点である。国内の銀行が持つ(負の)影響力は2種類ある。まずは,レバレッジ比率の引き上げ,もう一つが,金融システムにおける全体的な金融リスクの引き上げである。2017年4月以降,PBOCおよび中国銀行保険監督管理委員会(CBIRC)は新たな規制を発表し,かつCBIRCは中国財政部との統合も果たした。これらによって,2017年以降,中国のレバレッジ比率は目に見えて大幅に低下した。現時点では,債務インフレの側面には,重大なリスクは存在していないと考えている。財政状態は依然として極めて良好である。インフレ率は,現在わずか1~2%である。

 確かに,中央銀行は銀行を規制しなければならない一方で,規制が厳し過ぎれば景気減速を招いてしまう。それは規制のジレンマかもしれない。2017年以降の中央銀行部門のニュース発表を読んでいただければ,政策スタンスの変更は最小限に留められていることがお分かりいただけるはずである。

【中国からの資本流出】2014~16年の約3年間,これまで観察されなかった中国からの資本流出が発生した。その理由として2つの要因が考えられる。一つは,「アメリカの金利引き上げ」と,もう一つは「人民元の国際化」との関係である。

 ただし後者,つまり人民元の国際化の問題は長期的な問題である。PBOCは,現実のニーズに基づく,対米ドルで考えた上での人民元の資本フローを支持している。人民元でもUSドルでも,さらにはその他の通貨も使用可能であるが,PBOCは人民元の国際化に制限をかけようとは思っていない。また中国は,国内の資本市場,とりわけ債券市場を大きく開放している。現在,海外の機関投資家は,自由に中国のインターバンクで投資口座を開設したり,投資による利益を回収したりできるようになっている。

【チェンマイ・イニシアティブのようなタイプの地域金融協力,特に日中スワップ協定に対する見解】チェンマイ・イニシアティブ(CMI),現在ではそのマルチ化(CMIM)は,地域的な金融の安全および安定には重要な手段になるとPBOCでは考えている。

 PBOCは,ほとんどの経済大国の中央銀行,例えばイングランド銀行やスイス銀行と二国間通貨スワップ協定を締結している。中国と日本は経済大国であり,PBOCは日本とも二国間通貨スワップ協定を結ぶのはごく自然なことと考えている。

 日本は過去20年の間,アジア地域でアジアの通貨を取引する方法の確立を模索してきたことを承知している。日本円,ひいては域内全体の通貨の利用を拡大して,取引や投資を行うためである。通貨スワップは,そのような戦略において鍵となる。中国もこの戦略における重要なパートナーである。

 人民元の国際化は,主にマーケットに任せるべきだというのがPBOCの見解である。もちろんPBOCは,取引コストや為替リスクの削減を考えて,現地通貨の利用を促している。しかしこのプロセスに中立性を欠いてはいけないと考えている。規制する側にとっても,される側にとっても,いかなる形であれ,マーケットには障害というものがある。PBOCは事業推進のために両者の隔たりを埋める努力を重ねている。とは言っても過干渉は避けるべきで,投資家や企業が取引するマーケットが決定することだと思う。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1556.html)

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