世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
中国の科学院「少年班」と中関村サイエンス・パークの5つの「ファンド」
(日本大学 教授)
2019.10.07
1.中国の産業集積・イノベーションの決定要因
中国のイノベーションに関して,特許取得総件数,政府研究開発費などでアメリカを抜いて世界1位となっている。特許取得総件数は,2017年にアメリカが285,913件,日本が285,507件に対して中国が352,546件である(WIPOによる)。世界のスタートアップ(起業)の2018年世界ランキングで北京は,シリコンバレーについで第2位である。今回は,中国・中関村サイエンス・パークの成功の要因を説明したい。
イノベーションのためには,人材と資金である。そこで,今回は集積の成功要因は人材の育成・招致と投資ファンドという的確な政策を指摘したい。
2.イノベーションのための人材の育成・招致政策
中国科学院「少年班」での「人材育成」と海外人材招致の「海亀政策」のイノベーションにおける役割を明らかにする。
中国科学院に鄧小平氏が英才コースとして「少年班」を1978年に創設した。これまでに約4,000人が巣立ち,先端技術を支える。バイドゥの張亜勤総裁は1978年に12歳で入学した。アリババ集団でクラウド部門の技術トップを務めたモン万里氏は1992年に14歳で入学した。寒武紀科技の陳天石CEOは2001年に16歳で入学した(注1)。
アメリカ・シリコンバレーなどから母国へ帰る中国の若者である「海亀族」の優遇政策は,「人材招致」という「人材」確保である。人材については,育成とスカウトが有効な手段である。スカウトについて中国でこれまで採られた有効な手段を以下で説明する。中国の海外からの人材招致は,いわゆる「海亀政策」と呼ばれる。
中国科学院は,1994年に海外人材呼び戻し政策として「百人計画」を実施した。1997年よりそれは「海外傑出人材導入計画」と「国内百人計画」に分けられ,2001年に「海外有名学者計画」が追加された。その実施以来2008年3月までに海外有名学者224人,海外傑出人材846人,国内優秀人材251人の成果を得た。その内訳は,中国科学院院士14人,研究所所長クラス85人,国家重点実験室主任51人であった(注2)。
また,2008年に中国共産党中央組織部・中央人材工作協調チームは,海外ハイレベル人材招致「千人計画」を開始した。窓口となった中国科学技術部は,国家重点イノベーションプロジェクト,ハイテク産業開発区を中心とする各種サイエンス・パークのための人材を招致する。この計画は,5~10年間で2千人のイノベーション人材を招致するという目標であり,実現した(注3)。
3.イノベーションを支えるファンド
『通商白書2018』によれば,中国の産業政策が「補助金」から「ファンド」へと変わり,産業投資ファンドの急速な伸びを指摘している。その国家集積回路産業発展投資ファンドの規模は,政府補助金の規模を上回る。中国製造2025における戦略的新興産業に関するファンド(1,387億元,約29億ドル)が2016年に設立され,2018年7月時点で8,000億元を超えた(180ページ)。
そして,研究に必要なファンドに関しては,中関村サイエンス・パークで5つのファンドの例がある。「標準技術ファンド」は,高度新技術企業の指導の下で規定された技術標準に対する補助金,標準パイロット企業により着手された標準化委員会の事業,標準パイロット企業により参加され,組織された国際標準化会合に提供される。
「特許促進ファンド」は,中関村サイエンス・パーク特別発展ファンドから支出される。その原則は,優先している,カテゴリーを推奨している,実質効果を最重要視する特定プロジェクトである。その目指すところは,企業の特許意識と特許運営を改善する特許促進である。
「オープン実験補助ファンド」とは,検査,テスト,技術的新発見を提供し,共同して大技術革新と産業化事業に着手する企業に適用される。
また,中関村の国家自主創新示範区での「国内債権保証融資・サポート・ファンド」に対しては,債権保証による銀行からの融資を受ける企業が割引の融資金利の補助のために応募できる。中関村の国家自主創新示範区での融資保証に対するファンドは,海外の学生やこの模範区でのこの手法に合致すると認可を受けた企業に提供される。
4.明確な戦略の特定化・実行が必要
中国の特許数の増大の要因として,科学院「少年班」での「人材育成」,アメリカ・シリコンバレーなどから母国へ帰る中国の若者である「海亀族」の優遇政策による「人材招致」という「人材」確保である。研究に必要な資金に関しては,ファンドの創設,中関村サイエンス・パークで5つのファンドの例がある。つまり,人材の「育成」・「招致」と「ファンド」の提供がある。
AI,IoT(モノのインターネット),ロボットなどイノベーションの第4次産業革命という歴史的な大転換期に,日本に求められる優先順位のついた上記の戦略とその実行が必要である。
[注]
- (1)日本経済新聞2019年7月7日電子版。
- (2)https://spc.jst.go.jp/policy/talent_policy/callingback/callingback_03.html(2019年8月25日アクセス)
- (3)https://www-overseas-news.jsps.go.jp/wp/wp-content/uploads/2018/04/2017kenshu_16pek_nakatsu.pdf(「中国の高度人材呼び戻し政策」北京研究連絡センター・中津純子,2019年8月25日アクセス)
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