世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1497

2019年・財政検証を読む:年金改革の課題

小黒一正

(法政大学 教授)

2019.09.30

 年金財政の健全性は,法律に基づき,年金財政の健康診断に相当する「財政検証」を少なくとも5年に一度実施することで確かめるが,7月の参議院選挙も終了し,先般(2019年8月下旬),厚労省は2019年の財政検証を公表した。

 今回は6ケース(ケースⅠ~ケースⅥ)を検証しているが,高成長(実質成長率が0.4%~0.9%)を前提とする3ケースでも,現在61.7%の所得代替率(現役男性の平均的な手取り収入に対するモデル世帯での年金の給付水準の割合)は50.8%~51.9%に低下し,約30年後の給付水準は約2割減となる一方,低成長(実質成長率が▲0.5%~0.2%)の3ケースでは所得代替率が50%を下回り,最も厳しいケースⅥでは,国民年金の積立金が2052年度になくなり,所得代替率が38%~36%程度になる可能性を明らかにした。

 2004年の年金改革では,年金給付を実質的にカットする「マクロ経済スライド」という仕組みが導入されたが,次の財政検証までに所得代替率が50%を割ることが見込まれる場合は制度改正を義務づけている。

 だが,マクロ経済スライドは1階部分(基礎)にもかかるため,低年金の問題を一層深刻化させる。例えば,2019年・財政検証のケースⅢでは,2019年度の所得代替率61.7%(=基礎36.4%+比例25.3%)が2047年度以降で50.8%(=基礎26.2%+比例24.6%)になる。これは,マクロ経済スライド等により,1階部分(基礎)の給付が約28%カット,2階部分(比例)の給付が約3%カットされることを意味する。

 2015年10月1日から「被用者年金一元化法」で厚生年金保険と共済年金は一元化されたが,国民年金と厚生年金の財政運営は基本的に分離されており,マクロ経済スライドの調整は2段階で行われる。具体的には,まず,国民年金の財政均衡から基礎年金の調整を行い,それを前提に,厚生年金の財政均衡から報酬比例の調整を行う。この事実はあまり知られていないが,国民年金は,厚生年金と異なって財政基盤が脆弱なため,財政収支の均衡を図るための給付カットが大きくなる。

 この問題を改善する一つの方法としては,国民年金と厚生年金を財政的に統合する方法があるが,その効果を,「2019(令和元)年財政検証関連資料」のケースⅢのバランスシートから概算すると,国民年金と厚生年金における平均的な給付カットは約8.3%になる。

 我が国の公的年金制度の最大の問題は,老後の防貧機能を堅持しながら,年金財政の持続可能性をいかに高めていくかにあるが,今回の財政検証の結果を精査し,次の改革に向けた活発な議論が行われることを期待したい。

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