世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1470

中国の新都市はメガシティになれるのか

伊鹿倉正司

(東北学院大学 教授)

2019.09.02

 紀元前3200年ごろ,メソポタミアにおいて世界で最初の都市が誕生したとされる。それからおよそ5000年後の現在,国連の『世界都市人口予測(2018年改訂版)』によれば,人口100万人超の都市は548都市を数え,さらに「メガシティ(巨大都市)」と呼ばれる人口1000万人超の都市は33都市に達している。今後,途上国地域を中心に次々とメガシティが誕生し,その数は2030年には43都市にまで増加すると予測されている。

 2017年4月,中国政府は「千年の大計」と位置付ける新都市開発構想を発表した。その名は「雄安(ゆうあん)新区」。首都北京から南西約100キロメートル離れた河北省の農村地帯に,2035年までに約2兆元(32兆円)の巨費を投じて最先端の未来都市を創造する計画である。中国政府の目論見では,完成時の2035年には人口は200万人を超え(名古屋市とほぼ同規模),2050年には人口1000万人に達するメガシティになるとされる。仮に実現すれば,わずか100キロメートル圏内に,世界でも類を見ない3つのメガシティ(北京,天津,雄安)が隣接することになるが,果たしてどうなるであろうか。

雄安新区の目的

 雄安新区は,次の4つの目的で計画された(岩永正嗣「雄安新区訪問記-自動運転,無人スーパー,そして巨大新空港-」『IDEスクエア』アジア経済研究所,2018年9月)。第1は北京の非首都機能の集中的な分散,第2は人口経済密集地区の優良な開発新モデルの探索,第3は北京・天津・河北の都市配置と空間構造の調整・改善,そして第4はイノベーションの駆動による新たな発展エンジンの育成である。

 上記で特に重要なのは第4の目的であることは論をまたない。中国政府は,国内検索エンジン最大手の百度(バイドゥ)を中心企業に据え,雄安地区を自動運転の社会実装の場にしようとしている。自動運転の最大の障害は,予測不可能な歩行者(場合によってはドライバーなど)への対応であるが,雄安地区では歩行者や一般の自動車を地下道に,自動運転車を地上道に集約することが計画されており,そのようなすみ分けが行われれば,現在レベル2(運転支援)の実用化にとどまっている状況からレベル5(完全自動運転)の実用化まで「カエル跳び」する可能性がある。

 また自動運転以外にも,画像認識技術を用いた無人スーパーや自動配送ロボットなどの実証実験が精力的に行われており,製品やサービスを未完成段階から市場に投入し,試行錯誤を繰り返しながら短期間で社会に根付かせていく「中国型社会実装」がここでも如何なく発揮されている。

雄安新区に住むのは誰なのか

 雄安新区を語る際によく用いられているのが「第二の深圳」という言葉である。1980年当時,人口約6万人の小都市にすぎなかった深圳は,対外開放政策による外資企業の進出により,「深圳速度」と呼ばれる急速な発展を遂げ,現在では人口1300万人のメガシティとなっている。深圳のわずか40年足らずのメガシティ化の背景には,ハリス・トダロモデルで説明されるような,高い期待賃金を求めた地方からの若年労働者の大量流入が挙げられる。

 雄安新区には,前述の百度だけではなく,アリババやテンセントといった巨大プラットフォーマ―や日米欧の大手企業が次々と進出し,次世代最新技術の実用化を目指している。この状況は,さながら1980年代の深圳を想起させるが,深圳と雄安新区の大きな違いは,深圳に進出した企業の多くは雇用創出力の大きい製造業であったのに対し,雄安新区の進出企業には製造業ほどの雇用創出力が期待できない点にある。また,雄安新区では,IoT,人工知能(AI),ブロックチェーンといった省力化・無人化技術を全面的に導入していくことから,地方からの低技能労働者が働き口を得られる余地はかなり限られたものとなるであろう。よって,深圳のような大規模かつ継続的な人口流入(社会増)が起きるとは考えにくい。もっとも中国政府としては,そもそも働く必要のない富裕層や選ばれし国民,医師やプログラマーといった高技能労働者などの居住を想定しているかもしれないが,これもまた,彼らが数百万人単位で移り住むとは想像しにくい。

 さらに言うならば,雄安新区は,将来的には最先端技術を活用して高度に管理・監視され,いわばトマス・モア以降のユートピア思想で描かれる世界に近い都市になると考えられる。しかしながら,ユートピアは憧れる程度が良いのであって,実際に存在し,そこに住みたいと考える人間は極めて少数であろう。

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