世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1467

ILC東北誘致,10月末に仙台市で国際会議:日本政府の最終決定に向けて好影響の期待

山崎恭平

(東北文化学園大学 名誉教授)

2019.09.02

 ILC(International Linear Collider,国際リニアコライダー:次世代線形加速器)誘致は時事用語の一つであるが,候補地の東北地方以外ではほとんど認知されていない。横文字で分かり難く分野が素粒子物理学で馴染みにくい上に,世界的な候補地としてお墨付きの東北地方が日本の政治経済や学問研究の中央首都圏から離れている影響がある。しかし,国際宇宙ステーションや南極観測に匹敵するといわれる日本で初の国際科学研究プロジェクトが国際的に請われて日本に実現する“千載一遇の機会”と見れば,東日本大震災からの復興途上東北地方の「地域創生」に資し,そして国家百年の計「科学技術立国」の視点からもっと注目されてしかるべきである。

 候補地の東北地方では産官学一体となった誘致実現に向けた政府への活動に加え,地元では誘致環境の整備に向けた取り組みが既に始まっている。例えば,実現すれば来日する外国人研究者やその家族に必要な医療機関やインターナショナル・スクールの検討,また地域住民への周知や教宣活動,未来を担う小中高生の子供達がILCを学ぶ出前授業が進んでいる。地域の産官学一体となった取り組みだけでなく,地域住民や未来の担い手である子供達が誘致実現に向けて学び備えているのは,現在の日本では他に例がない稀有な実例であろう。

 目下は首都圏に居を構えているが,20年近く東北の地で若者たちと学び合い地域の人々から教えを受けて来た立場から,せめて東北の課題の一端を中央に繋ぐお手伝いに資したいと考えている。日本の首都圏のマスコミではILC誘致の案件はほとんど伝えられていない現状もあって,この世界経済評論のコラム・サイトに訴え有識者に問題提起をしたい。先日ITIの研究会でも問題提起を図ったが筆者の能力不足から出席者の関心醸成に至らなかったので,本稿で再度ILC誘致への重要性を提起させていただきたいと思う。

 まず,日本にILCを建設する計画を進めて来た国際研究者組織(注*)が今秋の10月28日から11月1日にかけて仙台市の国際センターで国際学会(LCWS,Linear Collider Work Shop)を開催する展開に注目したい。内外300人以上の世界的研究者の参加が見込まれ,技術的な観点や財政的な議論に加えて,文部科学省がこの3月初め決定を先延ばしながらも初めて関心ありとし内外協議を行う表明を評価して,その後押しの学会開催である。

 詳細はまだ明らかにされていないが,日本政府の誘致決定のためには来年始め公表される日本の長期計画「マスタープラン」と「欧州素粒子物理学戦略2020〜24」にILC計画が挙げられる必要があるようだ。国際学会開催はこれに向けて重要なステップになるものと見られ,東北地方の関連機関や住民は大きな期待を持っている。というのも,日本政府の最終判断に資すると見られるとともに,3年前にはこの国際学会が盛岡市で開催されそれ以降のプロジェクト推進に繋がっているからである。盛岡の国際学会には筆者も傍聴し,雪の降る寒い12月にもかかわらず熱心な議論が展開され,またILCを学ぶ欧州研修旅行に参加した中学生とノーベル物理学賞受賞の外国人学者との討論会に感銘を受けた。

 地域の推進活動では,全体をまとめる産官学の東北ILC誘致推進協議会や知事会,県議会連合等が日本政府に早期実現の決定を要請するとともに,岩手県は推進室を局に拡充して準備強化を図かっている。建設候補地だけでなく内外からの資材輸送が見込まれる港湾や道路を抱え,また研究者やその家族が和む温泉や世界遺産の観光地を想定して,岩手・宮城両県の8市町村は協調して誘致実現に向けた活動を始めた(岩手県から一関市,奥州市,大船渡市に平泉町。宮城県から気仙沼市,栗原市,登米市,大崎市)。既に,8市町長は連名でILC誘致意見書をまとめ日本学術会議代表に提出し地域の熱意を届け,環境整備や住民への周知の説明会や子供達の学習に出前授業を強化している。これとは別に,この計画をサポートする政府機関のKEK(つくば市の高エネルギー加速器研究機構)は設計や費用負担の在り方を検討するWGを立ち上げ(メンバーは,日,米各2人,独,仏,インド各1人,計7人構成),9月末までに検討結果が文部科学省に提出される。

 友人の一人はILC誘致の意義は認めるものの,昨年末日本学術会議の作業委員会が高額建設費等の理由で誘致に否定的な答申をしてから誘致実現が難しくなったと残念がってくれた。しかし,文部科学省がこの3月初め結論を先延ばししながらも日本の関心を初めて表明し,日本での建設を図ってきた国際研究者組織はこれを評価して10月末に国際学会を開催する。この国際的な動きに加えて地域がこれほど誘致実現に熱心になっている実態を踏まえると,ILC誘致は是非実現すべきと強く願っている。(8月25日記)

[注]
  • *ICFA(International Committee for Future Accelerators)やその下部組織のLCC(Linear Collider Collaboration)

関連記事

山崎恭平

科学技術

教育・学び

日本

最新のコラム