世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
延伸する海のシルクロードと中欧連携の強化
((一財)国際貿易投資研究所 客員研究員)
2019.06.17
2013年の「一帯一路」構想の提唱以来,早や6年近い歳月が経過した。この間,全体的には着実な拡大と広がりの進展が主な特徴として挙げられる。実際,同参加国は本年4月末現在,既に合計131カ国(2015年時点は63カ国。直近では欧州諸国が多数)および90の国際組織にまで拡大している。また,元々のルート上に位置するアジア,アフリカ,欧州地域のみならず,さらに北極圏や大洋州,南米地域に至るまで広がり,対象が広範囲にわたってきていることが指摘できる。
こうした状況下で,米中貿易摩擦の影響が一段と深刻さを増す中,最近顕著に窺えるのは中国の欧州に対する接近ぶりである。そこで本小稿では,「一帯一路」構想のうち,特にアジアと欧州を海路でつなぐ海のシルクロード(「一路」)に焦点を合わせながら,昨今における中国・欧州間の連携強化の動きについて考察したい。
際立つ中国企業の海外港湾への積極投資
中国はこれまで「一帯一路」沿線国を中心に,その実現に不可欠で大切な要となる港湾および鉄道を着々と整備拡張してきた。とりわけ中国の活発な海洋進出と呼応するように,中国主導の港湾インフラ投資が海外で前向きに進められてきた結果,近年では中国企業(主に海運・港湾・建設分野)による海外港湾の開発・運営事業への投資が大幅に増大している。今日ではそれが世界の概ね約40の主要港湾にも達するといわれる。
なかでも「一路」開拓の文字通り先兵として,海外港湾への投資を積極的に推進し中核的な役割を担っているのが,中国の代表的な国有大手海運企業の中国遠洋海運集団(コスコ・シッピング)と中国招商局集団である。両社とも港湾権益の取得に伴って,海外でのコンテナ取扱量の急増が目立つようになった。このうちコスコ・シッピングの場合,2018年6月末現在,海外港湾への投資は計11カ国,13の港湾埠頭を数える。ちなみに,2018年の海外コンテナ取扱実績は前年比31.5%増の2,477万TEU。しかも,過去5年間に実行された7件に上る投資プロジェクトにおいて,特徴的なのがその6件は全て欧州および地中海地域に関わるものという点である。
ピレウス港からトリエステ港へ
中国にとって欧州は最大の貿易相手である。そのため,中国は欧州への足掛かりとして,まずバルカン半島南端で地中海に面するギリシャを取り込もうと,以前から債務危機に陥っていた同国に財政支援を行ってきた。それを契機にコスコ・シッピングは,同国最大のピレウス港を2016年に買収したのである。スエズ運河の拡張工事により地中海地域の重要性が今後増していくであろうとの期待もあり,欧州中央部と結ぶ交通の要衝を押さえたい中国には,地中海の海上輸送網を握る狙いがあったものと推察される。
そのような動きの中で,習近平国家主席は本年初の外遊先として西欧3カ国を選び,第2回「一帯一路」ハイレベル・フォーラム開催前の3月末に訪問を果たした。今次歴訪のハイライトは何と言ってもイタリアがポイントであり,先進7カ国(G7)初となる同構想を共同推進する覚書に署名すると共に,同国北部のトリエステやジェノバでの港湾整備計画への中国企業(中国交通建設集団)の新たな参画など,20項目以上のプロジェクトが締結されたのであった。
これにより中国は,トリエステ港がピレウス港に比べ小規模とはいえ欧州各地へのアクセスが便利なことから,「一路」の枢要な海運拠点の確保を踏まえて,海上輸送網の更なる連結強化・拡充に乗り出していくこととなった。
次は海・陸輸送ネットワークの接合か
欧州でも今や多くの国が中国への依存を深めており,中国による欧州攻勢が幅広い分野で一定の成果を収めつつある。現在,米中両国間と同様に,米EU間の通商協議を巡っても厳しい対立が生まれている。まさに対米関係という観点からは中欧双方の利害が一致しているわけで,長期化かつエスカレートする米中対立を逆手に取りながら,中国はある意味でしたたかに立ち回っているともいえる。欧州での対中懸念(例えば,本年3月には10項目から成る対中行動計画を策定)をよそに,その政治・経済的影響力は徐々に高まっているのが実態である。
こうして中国が恐らくその先に見据えているのは,上で述べた海上輸送網と,もう一つの陸のシルクロード(「一帯」)と称される中国と欧州を鉄道で結ぶ国際定期貨物列車(“中欧班列”―2018年の運行実績は年間6,300本で,中欧双方の約50都市を連結)による鉄道輸送網との接合を図ることではないかと思料される。この“中欧班列”を経由した鉄道ルートに接続することで,中国国内で大きくクローズアップされている“海鉄連運”(海上輸送と鉄道輸送を結び付けた一貫輸送)方式の海外版を欧州でも確立し,中国に有利なグローバル・サプライチェーンの構築と展開を目指しているとみられる。
いずれにせよ,今後は欧州大陸における縦横無尽の一大物流網を段階的に整備していくことにより,欧州との連携強化を一層図っていくとの思惑が働いていよう。我が国としてもそうした流れの変化にこれまで以上に目を向け,その行方を十分注視していく必要がある。
関連記事
小島末夫
-
[No.2666 2022.09.05 ]
-
[No.2460 2022.03.14 ]
-
[No.2285 2021.09.20 ]
最新のコラム
-
New! [No.3602 2024.10.28 ]
-
New! [No.3601 2024.10.28 ]
-
New! [No.3600 2024.10.28 ]
-
New! [No.3599 2024.10.28 ]
-
New! [No.3598 2024.10.28 ]