世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
戦後の邦銀の海外展開
(東北学院大学 教授)
2019.05.20
2019年5月1日,年号が平成から令和に変わった。改元にあたり,メディアでは平成30年間を振り返る特集が数多く組まれたが,本稿では2回に分けて邦銀の海外展開の30年を振り返ってみたい。今回は,平成30年間の海外展開の特徴をより明確にするため,その比較対象として昭和の邦銀の海外展開を3つの時期区分で概観する。
1960年代までの海外展開
戦後の邦銀の海外展開は,1952年4月のニューヨークならびにロンドンへの駐在員事務所の開設により「再開」された。再開という用語を用いたのは,横浜正金銀行(のちの東京銀行)や住友銀行などにより,戦前はアジアを中心に約40拠点の海外拠点が開設されていたが,太平洋戦争開戦後,もしくは敗戦後,すべての拠点が現地政府に接収されたことによる。
戦後から1960年代までの邦銀の海外展開は,その多くは東京銀行の海外展開であった。1954年に外国為替銀行法が成立し,同年8月,同法に基づいて東京銀行はわが国唯一の外国為替専門銀行となった。1960年代までの大半の都市銀行の拠点開設ペースは,6〜7年で1拠点開設できる程度の非常に緩慢なものであったが,旧大蔵省は海外拠点設置の認可において外国為替専門銀行を優先させる方針をとったため,東京銀行は年平均3拠点ペースで広範な海外拠点網を構築していった。結果として,1960年代末には東京銀行の海外拠点は51拠点にまで達し,邦銀全体の拠点数(91拠点)の実に6割を占めていた。
1970年代の海外展開
邦銀の海外展開は,1970年代に大きな転換点を迎えるが,その背景にはユーロ市場の膨張や日本企業の海外展開の増加,大蔵省の海外店舗行政の転換などが挙げられる。
1960年代までの大蔵省は,東京銀行以外の都市銀行に対して,一部例外を除き,海外拠点の開設を原則認めない方針をとっていた。しかしながら,海外の情報収集や人材育成の見地から,1969年度より年1拠点程度の駐在員事務所の開設を,また,1971年度からは海外支店や現地法人の開設も認めるようになった。このような海外店舗行政の転換を受けて,1970年代には邦銀全体で年20拠点程度のペースで海外拠点が増加し,1970年代末には邦銀の海外拠点数は300拠点を超えるまでに至った。
1970年代の海外展開の特徴としては,香港,シンガポール,シカゴへの拠点開設が増加したことが指摘できる。特に香港においては,アジアの国際金融センターとしての地位の高まりを背景に,1970年代末には24拠点開設され,ロンドン,ニューヨークを抜いて最も多く拠点が開設された。なお,香港に開設された拠点の多くは証券現地法人であり,現地法人の開設が急増したことも1970年代の海外展開の特徴の1つである。
1980年代の海外展開
国内外での金融自由化の進展,途上国における累積債務危機の顕在化,国際決済銀行(BIS)による自己資本規制の導入など,1980年代は邦銀の海外展開にとって激動の10年であった。
上述のように,1970年末までに開設された邦銀の海外拠点数は300拠点超であったが,1980年末にはさらに400拠点あまりが上乗せされ,723拠点にまで増加した。その大きな背景には,1984年度以降,進出先金融当局との調整がとれれば,拠点開設は各行の自主判断に委ねるとする大蔵省の海外店舗規制の大幅な緩和が指摘できる。
1980年代の邦銀の海外展開の主な特徴としては,次の3点が指摘できる。1点目は,現地法人のプレゼンスの更なる増大である。通常,銀行の海外展開は,駐在員事務所や支店形態が一般的と思われがちであるが,1980年代の10年間で最も拠点数を増やしたのは現地法人であった(48拠点から196拠点へ増加)。その背景には,国際金融業務がそれまでの貿易金融やシンジケート・ローンだけではなく,投資銀行業務やリース業務,投資顧問業務など,現地法人にしか認められない業務が拡大したことが挙げられる。
2点目は,1点目と深く関わることであるが,現地金融機関の買収が数多く行われたことである。それまでも現地金融機関の買収は散見されたが,1980年代のそれはスイスのゴッダルド銀行や米国のユニオン銀行など,大手金融機関の買収が活発に行われた。
3点目は,地方銀行の海外拠点の急増である。1970年末には5拠点にすぎなかった地方銀行の拠点は,1980年末には112拠点にまで増加した。拠点の大半は駐在員事務所であったが,都市銀行と同様に香港に現地法人を開設し,証券発行引き受けを行う地方銀行も存在した。
次稿では,平成30年間の邦銀の海外展開について,その特徴と今後の展開について述べていきたい。
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伊鹿倉正司
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