世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1334
世界経済評論IMPACT No.1334

急進展する「一帯一路建設」と「中国製造2025」に遅れた日本

朽木昭文

(日本大学 教授)

2019.04.08

 一帯一路建設,中国製造2025のそれぞれの進捗状況を明らかにする。一帯一路建設に関しては,2018年の8月から2019年の1月までの状況を示す。この間だけでも数多くの国との経済連携が進行している。

一帯一路建設

 一帯一路建設に関して,2018年の9月7日現在で,一帯一路建設への参加国は,105か国であり,アジア,アフリカ,欧州,中南米,南太平洋地域で123件の協力文書が署名された。習近平主席は,中国3大成長地域の北京・天津・河北共同発展,長江デルタ,香港・広東・マカオからなる大湾区建設による国家戦略と一帯一路建設と連携を目指すと宣言する。また,中国とロシアとは,「一帯一路建設」と「ユーラシア経済連合」と連携と協力において全面的戦略協力パートナーシップの高い堅固な基礎を築いている。中国国務院国有資産監督委員会は,沿線参入事業3116件であることを報告した。58か国企業が第1回中国国際輸入博覧会に参加し,出展1000社余りとなった。130か国余りが企業商業展に出展し,3000社余りが参加した。中国の重点事業が600社を支援する。

 ヨーロッパに関しては,ドイツやフランスなどを含む国と協力関係が進んでいる。全面的戦略パートナーシップが進む国もある。アジア地域に関しては,中央アジアのカザフスタンが自国の「光明の道」政策との連携を図る。他にアジア太平洋地域の8か国と連携を強化している。

 中東ではサウジアラビアとクウェートと経済連携を樹立している。また,中米のパナマと国境を樹立し,南米のアルゼンチンと南米地域のコネクティビティーを強化しようとしている。

 アフリカに関しては,中国アフリカ協力フォーラム(FOCAC)という中国アフリカ友好協力を中心に進められている。中国は,2018年9月7日現在でアフリカ37か国とともに「アフリカ連合」と了解覚書に調印している。また,中国国家開発銀行とアフリカ17行とは,2018年9月5日に中国アフリカ金融協力連合体を設立した。アフリカのガーナやケニアなど10か国以上の国が,8月30日から9月2日までに二国間協力文書に署名した。

中国製造2025

 中国製造2025の進捗については,全国的な展開は,習主席と李首相が先頭に立ち,第4次産業革命の下で革新型(イノベーション)国家の建設を目指す。この政策を推進するのは,国務院の工業・情報化省,国家発展改革委員会,科学技術省などである。産業分野としては,人工知能(AI),モノのインターネット(IoT),仮想現実(VR),ビックデータ,クラウドコンピューティングである。

 特に重要な役割を占める都市は,北京と上海である。北京市では中関村科学城(テクノポリス)が産業集積クラスターとして有効に機能する。重要なプレイヤーは,中国科学院,北京大学,清華大学である。先進コンピューティング技術,インテリジェント・コネクテッド・ビークル(ICV),集積回路設計,ヒトフェノムなどのイノベーションを目指す。同様に,上海においてもAI,IoT,集積回路,バイオなどの分野に焦点を当てている。

 中国製造2025の次世代情報技術に関して,中国人民大学・程大為教授は,グローバル・バリューチェーン形成のために「一帯一路建設」されると唱える。2018年の中国500大企業による総売上高は,71兆1700億元となった。双自連動とは,「自由貿易試験区」と「自主革新モデル」の連動である。自主革新モデルが,「中国製造2025」の核心である。それを実現する中心となるは,「北京市中関村国家自主革新モデル区」であり,そこでの6大ハイテク分野2018年の1−7月売上高の前年同期比23.1%増であった。開発研究者が60万1000人と8%増となった。企業の研究開発費は23.1%増となった。習近平主席は新世代AIの発展を推進する。マイクロソフト,アマゾン,アリババなどが上海に「AI革新プラットフォーム」を設立した。2018年の世界AI会議で世界AI産業地図を示し,中国の企業数は世界第2位となった。工業・情報化省によれば,IoT市場規模が2018年に1兆元超えた。

 5Gに関しては,中国電信,中国移動,中国聯通の3社が中心となり進める。国家級高新技術開発区のハイテク企業の集積を活用する。国内10か所の5G実験都市をテスト地点として選び,2019年に5G対応スマホを発売予定である。

 全国的には,AIの地質探査,AIと金融発展,商業革新,超解像フォトリソグラフィ装置開発などが具体化している。また,中国全土で技術革新が起きている。武漢の中国科学院では高精度シングルビット量子論理ゲートが実現し,江西省ではVR産業投資プロジェクトが開始され,重慶では高性能,低消費電力,プログラム可能なICの米インテル革新センターが設立された。吉林大学では勇気発光ダイオード(OLED)を調製し,100%近い量子効率を実現した。また,天津のスパコンセンターは2014年から5年連続のフル稼働で,自動車の研究開発にも使用されている。

 中国のこの進展に対する日本の対応の遅れは明らかである。対応が望まれる。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1334.html)

関連記事

朽木昭文

最新のコラム