世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1252

先進国の利上げ幅は0.25%ずつでいいのだろうか

榎本裕洋

(丸紅経済研究所 チーフエコノミスト)

2019.01.14

 昨年12月18−19日に開催されたFOMCをきっかけに世界の金融市場が動揺している。これを受けて今年1月4日,米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は,「金融政策を柔軟に見直す」と述べ,利上げを一時停止する考えを示唆した。FRBは2019年に2回の利上げを想定していたが,これに動揺する市場の火消しを優先した格好だ。筆者は金融政策運営にあたって,中央銀行は過度に株価など資産価格に配慮すべきではないと考えている。しかし今回のケースは中央銀行が金融政策運営にあたって株価など資産価格に一定の配慮をしなければ,肝心の金融政策運営そのものが困難になるという現実を明示した。

 FRB内部では有能な専門家があらゆる角度から最適な金融政策を検討しており,筆者ごときが米国の金融政策について云々言う資格がないことは十分理解している。しかし世界各国の金融政策を長期的に観察していると,「名目短期金利が従来よりも大幅に低下している先進国において,1回の利上げ・利下げ幅は従来どおりの0.25%でよいのか」という素朴な疑問が浮かぶ。世界を見渡すと,名目短期金利が6%程度あるロシアやインドでは1回の利上げ・利下げ幅は0.25%というのが定着しているが,名目短期金利が0〜2%程度まで低下している先進国において0.25%という1回の利上げ・利下げ幅は大きすぎるのではないだろうか。

 米国の過去の事例と比較してみよう。FRBは前回の利上げ局面(2004年6月から2006年6月)ではFOMCを開催するごとに0.25%ずつFFレートを引き上げたのに対し,今回の利上げ局面ではおおむねFOMCを2回開催するごとに0.25%ずつFFレートを引き上げており,0.25%の利上げ幅は維持しつつ利上げペースを緩和することで市場に配慮したといえる。それでも昨年12月の騒動を見る限り,利上げペース緩和だけでは十分な配慮とはなり得ないようだ。

 実際にデータを確認してみよう。米国の年代別の利上げインパクトを見るため,1970年代,1980年代,1990年代,2000年代,2010年代(2018年まで)の月次FF金利の変動係数(各年代の月次FF金利の標準偏差÷各年代の月次FF金利の平均)を算出してみた。結果は1970年代0.36,1980年代0.34,1990年代0.27,2000年代0.68,2010年代1.34と足元では明らかにFF金利の変動係数は上昇している。「2000年代はITバブル崩壊と回復,2010年代は金融政策正常化でFF金利の標準偏差(分子)が大きくなっただけ」という指摘もあるだろう。しかしFF金利の変動係数の上昇は主にFF金利の平均(分母)が小さくなったことによる。データから推察する限り,2010年代の低金利環境においては0.25%ずつの金利操作のインパクトはかなり大きいことがうかがえる。

 米国については長い間0.25%ずつの利上げ・利下げが行われており,市場参加者もそれを念頭においているため,短期的に利上げ・利下げ幅を縮小(例えば0.125%に)することは却って市場を乱すだろう。しかし中長期的には米国も含め先進国では名目短期金利は下がり続けると思われることから,円滑な金融政策運営を目指すうえで1回の利上げ・利下げ幅の縮小は検討に値するのでは,と愚考する。

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