世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1230

TPP11(CPTPP)発効のインパクト:保護主義化が進む世界経済の中で

清水一史

(九州大学 教授)

2018.12.24

 12月30日にTPP11(包括的及び先進的なTPP協定:CPTPP)が発効する。TPP11には,オーストラリア,ブルネイ,カナダ,チリ,日本,マレーシア,メキシコ,ニュージーランド,ペルー,シンガポール,ベトナムの11カ国が参加している。TPP11の発効は,現在の厳しい国際通商状況の中で大きな意味を持つ。

 現在,アメリカ発の保護主義と貿易摩擦が世界経済を大きく揺さぶっている。2017年1月のトランプ大統領の就任以降,世界の通商状況は大きく変化し,更にアメリカの関税引き上げと,中国と各国の報復関税によって,世界に保護主義が広がっている。アメリカと中国の間の貿易摩擦も終わりが見えない。

 このような状況の中で,TPP11が12月30日に発効する。TPPは6カ国の国内手続きの完了後60日で発効する規定であり,6月にメキシコが,7月に日本とシンガポールが,10月にニュージーランド,カナダが,そしてオーストラリアが国内手続きを終えて10月31日に協定寄託国であるニュージーランドに通報し,12月30日に発効する事となった。その後11月にはベトナムも,国内手続きを完了して通報した。

 TPP11は,アメリカがTPPから離脱してしまった状況の中で,日本が提案して主導してきた。オリジナルのTPPは日本とアメリカを含めたアジア太平洋のメガFTAであり,高い貿易自由化レベルを有することと,サービス貿易,投資,電子商取引,政府調達,国有企業,知的財産,労働,環境における新たな通商ルールを含むことが特徴であった。しかし2017年1月にはトランプ氏がアメリカ大統領に就任し,アメリカはTPPから離脱してしまった。TPPからアメリカが離脱し世界通商体制に逆風が吹く中で,日本はTPP11を提案しその交渉をリードした。2017年5月の交渉会合で日本が提案したTPP11が交渉開始され,2017年11月の閣僚会合でTPP11(CPTPP)が大筋合意された。各国がアメリカとの間で結んだ厳しい条件のいくつかは凍結された上で,2018年1月のTPP交渉会合で協定文が最終的に確定し,3月8日に11カ国によって署名された。そして各国での国内手続きの完了と発効を目指してきたのである。

 TPP11は,世界のGDPの約13%,貿易総額の15%,5億人の人口の規模を有するメガFTAとなる。アメリカが抜けてオリジナルのTPPに比べると小さくなったものの,その発効のインパクトは大きい。そしてTPPの高い水準の貿易自由化と大半の新たなルールを受け継ぎ,今後のメガFTAの雛形になる。TPP11では,関税撤廃やサービス貿易自由化などの市場アクセスは凍結の対象とはならず残り,ルールに関しても22の凍結分野以外の大半のルールはそのまま残されている。またオリジナルのTPPは,AECやRCEP,日本EU・EPAを強く後押ししていた。TPP11も,再度それらを後押しする期待が掛かる。

 更に当初予想の2019年初頭よりも早い,2018年内の発効は意味がある。自由化のスピードが速まるのである。TPP11では,関税削減は原則毎年1月1日になされることになっており,年内の発効により12月30日に最初の関税削減がなされ,多くの参加国では2日後の2019年1月1日には2年目の関税削減がなされるからである。

 またTPP11が発効することによって,更に参加国が増える可能性が高い。現在,タイ,インドネシア,フィリピン,韓国,台湾,コロンビア,イギリス等が,TPP11への参加や関心を表明している。たとえば,タイの参加は,タイ経済にとって大きなプラスの効果を持つだけではなく,まだ参加していないインドネシアやフィリピンなどの参加の弾みとなり,TPP11の影響力の拡大につながるであろう。来年1月には,日本で閣僚級の第1回TPP委員会が開催されて新規参加国の手続きを話し合う予定となっている。

 TPP11の発効は,東アジア経済統合にもインパクトが大きいだろう。ASEANが2011年に提案して交渉をリードしてきたRCEPは,2018年内の実質合意を出来なかったが,11月の首脳会議の共同首脳声明は,交渉が最終段階に進み2019年に妥結する決意であると述べた。TPP11の発効が,RCEP交渉の妥結を後押しするであろう。

 日本は,TPP11,RCEP,日本EU・EPAの3つのメガFTAを進めて,保護主義に対抗している。日本EU・EPAも,12月に日本とEUの議会で承認されて2019年2月に発効されることとなった。現代世界の通商状況において日本の役割は大きい。

 TPP11の発効は,現在の国際通商状況の中で大きな意義がある。オリジナルのTPPが他のメガFTAを後押ししたように,TPP11が他のメガFTAに作用して相乗効果を生むであろう。またTPP11の参加国の拡大が,更に相乗効果を生むであろう。現在の保護主義的状況は厳しいが,TPP11発効が起点となって,現在の世界経済の保護主義の状況を少しずつ逆転させて行くことを期待したい。

関連記事

清水一史

国際経済

アジア・オセアニア

日本

環太平洋

最新のコラム