世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1228

中国の一帯一路建設による「グローバル・バリューチェーン」形成:「連結性」強化へ日本の参加を急げ

朽木昭文

(日本大学 教授)

2018.12.24

 スリランカのハンバントタ港は,「債務の罠」として世界的な論争になっている。特に,本稿は,ジャーナリストが問題とする中国からの被援助国債務の問題が一帯一路建設の本質ではないことを指摘する。

 中国の「中国製造2025」,「自由貿易試験区」,「一帯一路建設」の3つの融合による一国だけでの「グローバル・バリューチェーン」形成に問題がある。ここでキー・ワードは,「戦略的新興産業」と「現代サービス業」である。

 中国製造2025は,「戦略的新興産業」を振興する。自由貿易試験区は,「現代サービス業」と「戦略的新興産業」の産業集積を目指す。一帯一路建設は,「連結性」強化により,自由貿易試験区から一帯一路建設・参加国へ「戦略的新興産業」を移転させる。そして,「グローバル・バリューチェーン」が形成される。

(1)「中国製造2025」の「戦略的新興産業」とサービス業

 国務院の2010年決定の戦略的新興産業は,7分野であり,2015年のそれを含む10重点分野は,次世代情報技術(IoTなど),先端デジタル制御工作,航空・宇宙設備,海洋建設機械,先進軌道設備,省エネ・新エネ自動車,電力,農用機械,新素材,バイオである(注1)。注目すべき2点は,サービス型製造の発展,そして鉄鋼,石油化学,建設機械,軽工業などの「バリューチェーン」のハイエンドへの発展である。

(2)自由貿易試験区は「現代サービス業」プラス「戦略的新興産業」による産業集積

 自由貿易試験区(PFTZ)は,2013年に上海に設立された。「現代サービス業」とは,①金融業,②航空・運輸サービス業,③商業・貿易サービス,④専門サービス,⑤文化・コンテンツ,⑥社会サービスの6分野である。

 自由貿易試験区は,具体的には,2015年に広東,天津,福建に,そして2017年に遼寧,浙江,河南,湖北,四川,陜西の各省と重慶市に設立された(国務院,2017年4月1日)。この時点で重点分野がサービス業から「戦略的新興産業」まで拡大した。具体的には,遼寧自由貿易試験区(PFTZ)では,営口が現代サービス業と「戦略的新興産業」を重点分野とする(注2)。

(3)「連結性」による「自由貿易試験区」から「一帯一路建設」参加国への産業集積のシフト

 空間経済学の結論の1つは,「2地点間の『広義の輸送費』がある値より低くなれば産業集積が移転する」という命題である。広義の輸送費とは,一帯一路建設では「連結性」である。インフラ整備などの「物的」連結性,貿易円滑化や単一市場などの「制度的」連結性,ヒトの移動促進などの「人的・文化的」連結性の3つが強化され,輸送費が安くなれはグローバル・バリューチェーンが形成される。

 自由貿易試験区は,一帯一路建設と政策として関連付けられた。各地域の「自由貿易試験区全体方案についての通知」によれば,重慶市は,「一帯一路建設」参加国と長江経済エリアをつなぐハブである。河南は,「一帯一路建設」の整備に必要な総合交通ハブである。陜西は「一帯一路」地域の経済連携と人的・文化的交流の拠点である(注3)。こうして,自由貿易試験区は,当初の単なる現代サービス業の対外開放の実験地から「一帯一路建設」との連携機能も持つようになった。

 したがって,自由貿易試験区の「現代サービス業」の改革開放が「戦略的新興産業」と繋がり,ロウエンドのバリューチェーンが,「一帯一路建設」参加国へシフトする。

(4)上海自由貿易試験区と一帯一路建設

 上海自由貿易試験区の産業集積が一帯一路建設と繋がる。中国国務院が2017年4月4日にその改革開放全面深化プランを発表した。「3区1堡」の新目標である。3区とは,外国直接投資(FDI)導入による開放と革新の一体型総合改革試験区,開放型・経済体系リスク・ストレス測定区,政府ガバナンス能力向上先行区である。3区は,国際経済・金融・貿易・海運センター,また「イノベーション・センター」の産業集積を形成する。1堡が,橋渡しとして「一帯一路建設」に繋がる。

(5)中国だけによる「一帯一路建設」によるグローバル・バリューチェーンの形成の転換

 アメリカとイギリスの鎖国に向けた政策は,中国のみを中心としたグローバル・バリューチェーンの形成を加速させる。中国だけではインフラ建設の資金は賄いきれない。日本のJICAによる政府開発援助の中国との協力が発表された。

 「連結性」,つまりインフラ整備などの「物的」連結性,貿易円滑化や単一市場などの「制度的」連結性,ヒト・文化の移動促進などの「人的・文化的」連結性の3つ強化へ日本が参加する。

 これは,日本にとっても中国にとっても,世界全体にとっても安定した経済をもたらすためプラスとなる。

[注]
  • (1)国務院(2015)「「中国製造2025」の公布に関する国務院の通知」,国発〔2015〕28号,5月8日。
  • (2)ジェトロ・ビジネス短信『遼寧自由貿易試験区の新規登録企業数は8,817社』,2017年9月2日)。
  • (3)(2)に同じ。

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