世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1204

CHP(熱電併給)とDH(地域熱供給):エネルギー対策最先進国では何が起きているのか

橘川武郎

(東京理科大学大学院経営学研究科 教授)

2018.11.12

 ヨーロッパのエネルギー事業を調査するために,今年の3月にはスウェーデン,8月にはデンマークを訪れる機会があった。

 世界エネルギー会議(WEC)は,三つの指標,つまり「エネルギー・セキュリティ」「エネルギー・エクィティ(エネルギーの利用のしやすさや手ごろな価格など)」「環境持続性(Environmental Sustainability)」にもとづいて,世界各国のエネルギー対策を評価し,ランキングを発表している(Energy Trilemma Index)。WECが発表した2017年のランキングで1位を占めるのはデンマーク,2位に続くのがスウェーデンだ。

 これらの「エネルギー対策最先進国」では,共通して,日本ではまだ部分的にしか行われていない仕組みが本格的に導入されていた。それは,CHP(Combined Heat and Power,熱電併給)とDH(District Heating,地域熱供給)だ。このうちCHPは,日本では「コジェネレーション」と呼ばれることが多いが,本質的には熱と電気をあわせて供給する仕組みだから,CHPと表現する方が正確だろう。

 スウェーデンでは,「Waste to Energy」と呼ばれる廃棄物(ゴミ)のエネルギーとしての利用に,力を入れている。同国でも,1995年にはゴミの約50%が埋立用に充てられていたが,その比率は2017年には1%を切るまでに至った。ゴミを発電用ないしCHP用の燃料として利用する動きが急速に広まったからだ。現在,スウェーデンには,Waste to Energyに携わる施設が,約40箇所存在する。イギリスやノルウェーからゴミをスウェーデンに持ち込み,Waste to Energy方式で活用する事例も増えており,「ゴミ処理のソリューションの提供」は,スウェーデンにとって,重要な外貨獲得源になりつつあると言う。

 現場に足を運ぶと,スウェーデンにおけるCHPの大規模な展開に驚かされた。ストックホルム郊外のBristaverkat Plantでは,バイオマス燃料を使う1号機が年間763GWhの熱と293GWhの電力を,ゴミを燃料として使用している2号機が年間490GWh熱と120GWhの電力を,それぞれ生産していた。熱・電力ともストックホルム市内およびその周辺地域に供給しているそうだが,DH(地域熱供給)用の熱供給の導管の総延長は約250kmに達すると言う。供給量だけでなく,敷地面積も,想像をはるかに超える規模のCHP施設であった。

 CHPとDHの普及度がさらに高いのはデンマークだ。デンマークでは,「Power to Heat」という言葉をよく耳にした。「電気から熱へ」あるいは「電気を熱の形で蓄える」という意味だが,これによって,柔軟でかつ堅固なエネルギー供給体制の構築が可能なる。電気が足りないときないし電気の市場価格が高いときには。風力だけでなくバイオマスも電力生産に充てる。一方,電気が余っているときには,再生エネで発電した電力を使って温水を作り,それを貯蔵する。その場合,熱需要が高ければ(例えば冬季),バイオマスを発電ではなく熱生産に振り向ける。大まかに言えば,このような仕組みだ。

 コペンハーゲンのDBDH(デンマーク地域熱供給協会)でうかがった話では,デンマークの全世帯における熱源の構成比はDHが63%,天然ガスが15%,石油が11%,電気等その他が11%であり,コペンハーゲンではじつに98%の世帯にDHの導管がつながっているという。火力発電設備のうちの66%がCHPであり,その燃料は59%がバイオマス中心の再生エネ,24%が天然ガス,15%が石炭,その他が2%とのことだ(数値はいずれも17年実績値)。全国各地に展開するDHないしDHSの事業主体は自治体で,非営利事業として営まれている。多くはタンクやプールなどの温水貯蔵施設を擁しており,そのなかには,昼夜間調整だけでなく季節間調整(夏期に貯めた温水を冬季に使う)が可能なものもあるそうだ。

 DBHAは,次世代DHとして,低温供給に取り組んでいる。現在,往き80℃前後,還り40〜45℃である水温を,それぞれ50℃,25℃程度に低下させようとしている。これが実現すると,廃熱・ヒートポンプ・太陽熱・地中熱などの活用が広がり,暖房用・給湯用のDH(地域熱供給)から冷房用冷熱供給も行うDHC(地域冷暖房)への進化が可能になる。

 デンマークでは,「自然エネルギーの島」サムソ島に立地するものも含めて,大小さまざまなCHPを見学することができた。その多くは,バイオマス(ウッドチップや藁)や太陽熱をエネルギー源としていた。コペンハーゲンの郊外でDH導管の敷設工事現場を目の当たりにできたことも,幸運であった。そこでは,敷設工事がわずか2名の作業員で行われていることに,少々驚いた。

 スウェーデンとデンマークでの調査で強く感じたことは,熱利用の重要性である。エネルギーの将来像に関する日本での議論は,電化に重きを置きすぎるきらいがあり,熱利用に十分な光を当てていない。しかし,わが国でも,電気一本槍から脱却し「電・熱複軸システム」を導入しない限り,エネルギーの未来は拓けないのではなかろうか。

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橘川武郎

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