世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1185

EVシフトは世界の石油需要を減らすのか

福田佳之

((株)東レ経営研究所 シニアエコノミスト)

2018.10.15

石油産業にとっても「100年に一度の大変革時代」か

 自動車産業は100年に一度と言われる大変革の時代に突入していると言われる。自動車産業においてコネクテッド化,電動化,自動化,サービス化などが同時進行しており,自動車メーカーは変わらざるを得ない状況だ。

 自動車産業の構造変化は自動車産業だけでなく,関連する上流・下流の産業にも影響を及ぼす。なかでもガソリン・軽油等を大量供給する石油産業にとってこの自動車産業の大変革を無視することはできない。2015年の石油需要全体に占める輸送用途(陸上)は45%を超える。モビリティサービスの普及やEVシフトの加速は自動車の燃料需要の減少と石油の価値の低下を招き,燃料供給の担い手である石油産業にも変革を迫るのだろうか。

モビリティサービスの普及は燃料需要増をもたらす可能性も

 モビリティサービス,とりわけ自動運転技術を活用したモビリティサービスが普及すると,燃費節約的な運転が可能となるだけでなく,渋滞が解消されて燃料需要が低下する。自動走行時では,コンピュータによる自動制御でアクセルなどを踏む回数が減少して省エネ運転が実現する。また自動運転トラックによる車間を詰めた複数車の隊列走行は,空気抵抗を和らげ燃費改善をもたらすことが実証されている。

 その一方,自動運転技術を活用したモビリティサービスの浸透は自動車の利便性を向上させて自動車の走行距離を伸ばし,燃料需要を増大させるとも考えられる。世帯アンケート調査にもとづくRIETI(経済産業研究所)の実証分析によると,自動運転の導入によって平均的な世帯の年間走行距離が伸びて燃料需要が増加することを明らかにしている。さらに利便性の向上で自動運転車の保有率が高まった場合などでは,燃料需要が上振れするという。

 総じてみると,モビリティサービスの拡大そのものは,燃料需要に対して省エネ効果等によるマイナスだけでなく,走行距離延長によるプラスの影響も出る可能性がある。

EVシフトでも内燃機関車が石油を相当需要する

 自動車メーカーが生産・販売の主軸を内燃機関車から電気自動車やプラグインハイブリッド車に切り替える,いわゆるEVシフトは,究極的にガソリンや軽油の需要を減らす。しかし,問題は今後のEVシフトのペースにある。内燃機関車からEVに乗り替わっていくには,車載電池などで割高なEV車両価格が低下して内燃機関車より下回る必要がある。今後,車載電池の量産化などでEVシステムのコストが低下すると見られ,2030年以降にはEVの車両価格が内燃機関車を下回ると見る。ただし自動車は電気・電子製品と異なって数年単位で使用することを前提として生産・販売されているため,2030年以降,内燃機関車からEVへの切り替えが生じたとしても長期にわたってゆっくり進行していくだろう。

 現行の燃費規制も石油需要の長期化につながる。現在,米欧中で実施され,日本でも実施予定の燃費規制,企業別平均燃費基準(CAFE:Corporate Average Fuel Efficiency)には自動車メーカーが抱える車種それぞれの燃費を改善させるインセンティブを有していない。つまりEVで燃費改善が見込まれれば,内燃機関車については燃費改善しなくても燃費規制をクリアできるのだ。そのため,EVシフトが進んでも,内燃機関車による燃料需要が相当程度残ることになる。

 化石燃料についてパリ協定順守やEVシフトなど市場や社会の環境変化でその価値が毀損した「座礁資産」と化すリスクが指摘されている。しかし,これまで見てきたように燃料の観点から見ても石油は今後相当程度利用されるため,石油の価値が大きく毀損されるとは考えにくい。今後の石油の動向を占う際に,一方的な見方に基づくことは禁物だろう。

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