世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
人材強国を希求する中国
((一財)国際貿易投資研究所 研究主幹)
2018.10.15
「天の時,地の利,人の和」(孟子の「公孫丑章句上」の一節)は戦略が成功するための三条件とされてきた。世界第二位の経済大国に躍進し,「人類運命共同体」の構築を究極的な国家戦略とする中国にとって,この「三条件」との関係はどうなるのであろうか。
こんな見方も出来るのではないか。中国にとっての「天の時」とは,今年が改革開放40周年であること,現在「第4次産業革命」の時代に入りつつあること,「地の利」とは,中国が提起以来5年となる「一帯一路」の地(100余ヵ国が参加・支持)の発展が期待されていること,そして,「人の和」であるが,これは,「人の才」,すなわち「人材」に置き換えたい。目下,中国は人材強国を希求している。
孟子は「三条件」の中で,「人の和」こそ,事を成す最大のエネルギー源と説いているが,今,中国が最も必要としているのが「人材」であり,中国の発展と命運を握る「カギ」として,「人材」確保,すなわち,「攬人才,育人才,留人才,使人才」(広く人材を求め,留め,育て,用いる)に,中国は最大限のエネルギーを注いでいる。中央政府が「人材強国」を目指せば,地方政府(各省・市・区)は,戸籍,住居,起業,福利厚生面への優待条件の提供を要とする人材争奪合戦(多くのメディアが「人材獲得戦争」と表現している)を展開し人材強省を目指し,また,企業は高額給与支給など数々の優待条件の提供によるすさまじい人材獲得競争を繰り広げている。一方,こうした人材の卵たちは,熾烈な「高考」(大学統一入試)に親戚一同一致協力して挑戦し,世界最難関とされた「科挙」(隋に始まる今日の公務員試験)にも相当する「国考」(競争率で1000倍を超える職種もある)や海外の有名大学の留学に未来を期している。
中国留学生が急増していることは,中国人材を語る上で極めて重要な視点となる。現在,中国は世界最大の留学生輩出国であり,ここ数年,こうした留学生の帰国率(2017年は留学生48万超が帰国)が高まり,今や,彼らはベンチャービジネス創業の中心として,未来産業,第4次産業革命を支える人材群(IT・インターネット・AI人材など)として大きく期待されている。前述の「留人材」の「留」とは,留学の「留」を意味するともいえよう。
人材は中国人に限らない。目下,中国は世界有数の留学生受け入れ国でもある。この点,一帯一路沿線国からの留学生,一帯一路沿線国への中国人留学生が急増している点は注目に値しよう。中国が希求している人類運命共同体のプラットフォームたる一帯一路の推進に,中国は留学生の受入と排出という「布石」打っているといえる。
さらに,中国は海外ハイレベル人材の招聘・採用にも余念がない。例えば,中国家電大手の美的集団の世界イノベーションセンターは4000人のR&D技術者を抱えているが,うち,500名が外国籍,留学組で占められている。このほか,外国人材に永久居留身分証やグリーンカードを発給したり,外国人向け就職説明会を開催する市政府(深圳,上海,武漢など)増えており,日本でも今年8月に福建省が東京で海外人材招聘関連説明会を開催している。
中国を世界第二位の経済大国に躍進させた原動力は,「引進来」(輸入と外資導入)に「走出去」(中国企業の海外展開)であったが,これからは,内外人材の「引進来」と「走出去」が中国の発展,世界経済の行く末に大きく関わってくるのではないだろうか。
先日,中国の大学で話す機会があった。各国の留学生と中国人学生が実に自然にキャンパスを往来し交流していた。そんな彼らの立居振舞の中に中国が希求する人類運命共同体のプラットフォームの一端を垣間見たような気持になったものである。
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