世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1232

中米貿易戦争に新たな火種か

江原規由

((一財)国際貿易投資研究所(ITI) 研究主幹)

2018.12.31

 最近,日本でファーウェイ(華為)のスマートフォンカメラのTVコマーシャルを見かけるようになった。そのキャッチフレーズがふるっている。“撮るを極めよ”だ。同社のスマホは綺麗に撮れるとして,日本では“知る人ぞ知る”スマホとなりつつあり,華為スマホファンが増えているという。因みに,華為・ジャパンは,中国企業ではじめて経団連に加入した中国企業でもある。

 そんな事情や,日中関係が大きく改善しつつあることなどから,12月1日に発生したカナダでの華為CFO逮捕事件には,同社のスマホファンに限らず,多くの日本人が関心をもったに違いない。逮捕事件当日,米中両国首脳が中米貿易摩擦の解消に向け会談,日本の各メディアは会談のスナップ写真を掲載,「首脳会談で合意」と見出しその内容を報じていた。中米貿易戦争とまで形容された事態は収拾の方向に向かいつつあるとの期待感が高まる,そんな矢先の逮捕劇であった。今や,同逮捕劇は,米中貿易摩擦の最前線に躍り出た感がある。その主役はCFOの身柄拘束を要請した米国で,カナダは共演者ということになろう。中国は,といえば,逮捕劇を厳しく批評する映画評論家というところであろうか。

 今回の逮捕劇が教えているのは,米国が書いた「シナリオ」で共演させられたくないと思いつつもそうせざるを得ない国があるのではないかということである。例えば,華為には,中国企業だけでなく,米国を含め世界に数千社のサプライヤーが存在するとされるが,今回のCFOが逮捕されたことで,関係各国での華為の企業活動に影響が出るとしたら,当該国にとって思わぬ事態にならないとも限らない。現に,CFO逮捕が報じられると,カナダ,米国,アジアの株式市場に影響が出たとされる。例えば,12月6日,アジア市場では「華為・ショック」で全面安となり,また,ニューヨーク株式市場でも中国で人気のカナダのダウンジャケットメーカー(Bosideng社)の株価が8.44%下落するなどダウ工業株30種平均が急落したと報じられた。株式市場のみならず,世界第二位の経済大国である中国と各国との経済連携,さらに,対中貿易,双方投資などへの影響が避けられないとみる識者は少なくない。すでに,次世代無線通信システム5Gで世界をリードするとされる華為と商用契約を結んでいる国は20数カ国もあるという(12月10日,中国外交部定例記者会見)。関係各国が同逮捕劇への対応を誤れば,今後,当該国はもとより,世界経済や人々の生活にも影響がでる可能性は決して小さくない。

 日本では,この逮捕劇を「米中の新たな火種」などと報じるところもあるが,すでに,中国では華為の米国大手競合他社製品の不買運動が起き,また,一部の国が政府調達から華為製品を排除するなど,「米中の新たな火種」が拡大しかねない状況にある。

 華為のCFOは保釈が認められたものの,依然,その成り行きが極めて不確実である。人民網(中国共産党機関紙人民日報のニュースサイト,2018年12月14日)は,「今回の事件は単なる司法事件ではなく仕組まれた政治行動で,米国が国家権力を利用して中国のハイテク企業を葬ろうとしたものだ」としているが,事件の背景には,5Gなどに代表される第4次産業革命や国際企業間での主導権争いを超えた国際経済ガバナンス,ひいてはグローバルガバナンスの形成をめぐる米中の主導権争いがあるのではないだろうか。この点,中国がすでに世界2位の経済体で世界最大の貨物貿易国・工業国・外貨準備保有国となって久しいこと,最近では,中国が国連分担金の比率で日本を抜いて米国に次ぐ世界第2位となったことなど,世界における中国のプレゼンスが急速に高まっていることと大いに関係があるとみられる。

 2019年は,世界最大の途上国と自称する中国と世界最大の先進国の米国が国交を締結してから40周年を迎える。この機会に,両国には,“目には目を,歯には歯を”の応酬合戦を一時休戦し,「新たな火種」を取り除き,最悪の事態にならないよう歴史的教訓を汲んでほしいものである。

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