世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1089

朱鷺と一帯一路

江原規由

((一財)国際貿易投資研究所 研究主幹)

2018.06.04

 日中関係の改善ムードが高まっている。5月に来日した李克強総理は,日中の友情のしるしとして,朱鷺2羽を日本に贈呈するとした。朱鷺といえば,今でこそ,佐渡と新潟に500羽ほど生息が確認されているが,1990年代に自然絶滅している。ちょうどその頃,中国陝西省で数羽の朱鷺の生存が確認され,朱鷺繁殖に向けた懸命な日中協力が始まる。今,日本の空を飛翔している朱鷺は,中国の朱鷺の子孫である。

 中国人は,贈物にこころと期待を込める。李総理の朱鷺贈呈には,日中協力のもつ意義,そして,さらなる関係改善へのメッセージが込められているようである。

 さて,次は,安倍首相の訪中が期待されているが,果して,どんな贈物が中国に届けられるのであろうか。今年1月,訪中したフランスのマクロン大統領は,国礼として駿馬を贈ったことが,中国で大きな話題となった。中国には,“馬達成功”(着手すれば直ちに成果をあげる)との例えがあるが,件の駿馬の贈呈には,ユーラシア大陸の東西を代表する両国が協力関係の強化で“早期成果を”とのフランスの期待が込められていたようである。少なくとも,中国人のこころをとらえたことは間違いない。

 贈物はものに限られるわけではないが,安倍首相の訪中の実現は,李克強総理の訪日への答礼の意味合いもある。李克強総理の来日で注目されたのが日中両国の第三国協力の推進と一帯一路建設での協力促進ということが出来よう。第三国協力については,第三国で日中民間企業によるインフラ協力を進めていくため官民の新たなフォーラムを設置することで合意するなど,日中両国企業にとって,新たなビジネスチャンス創出への期待が高まっている。実際,2017年の日中貿易は,5年ぶりに前年比マイナス成長からプラス成長となっている。日中双方の投資も低迷状態を脱し回復基調に入ったとされる。今後は,中国に進出している日本企業と中国企業が,また,世界第二位の対外投資国となった中国の企業による対日投資の拡大が見込まれる中,中長期的には,日本に進出した中国企業と日本企業が連携して第三国に投資しビジネスチャンスを共有する機会が増えて来ると期待できよう。

 日本との第三国協力について,中国の本音は一帯一路での協力を優先したいということではないだろか。日本でも,中国国家開発銀行と日本の大手銀行のトップ会談で,一帯一路の「枠組内」で第三国市場での協力を推進することで共通認識に達するなど,一帯一路での事業展開に日本の財界の関心は高まっている。李克強総理の訪日以後,一帯一路ビジネスへの日本の積極的姿勢を取り上げる中国メディアの論調が目立ってきている。

 5月上海で,筆者も関係した世界各国から学術関係者を中心に産学官の代表が参加する「第一回“一帯一路”上海フォーラム」が開催された。こうした一帯一路関連フォーラムは,規模の違いはあるが,ほぼ毎日のように中国のどこかで開催されているといっても過言ではないが,フォーラムにおける日本要素が目立ってきている。この点,上海のフォーラムでは,分科会で,“日中協力と一帯一路での共同建設”をテーマに議論がされている。一帯一路への日本の積極的参与への期待が高まっていることの証左といえる。

 日本には,まだ,一帯一路の「枠組内」での協力という表現が気になる向きが少なくないようである。“日本主導での第三国協力”も大いに結構なことである。中国は,一帯一路を提起したが,世界の公共財として“世界と共に”推進しよう主張している。

 ともあれ,中国での日中首脳会談が早期に実現し,どんなメッセージが出されるか期待したい。

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