世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1161

大詰めILC誘致,未来志向の政策判断ができるか:科学技術立国と東北創生に向けて誘致に英断を

山崎恭平

(東北文化学園大学 名誉教授)

2018.09.24

 南極観察やISS(国際宇宙ステイション)に匹敵するといわれる国際科学プロジェクトILC(International Linear Collider)の誘致が年内政策判断の大詰めを迎えている。文科省有識者会議が2014年以来の審議で科学的な意義ありとしながらも,財源や効果等の課題でこの8月から日本学術会議が審議に入り年内に答申が行われる予定である。この運びの中で世論の主役国民が認知する上で重要な全国紙にもようやく記事や論評が出始め,首都圏でのシンポや展示の催しが見られるようになった。遅きに失した展開であるが,サイト候補地の北上山地南部を抱える岩手,宮城両県や東北地方にとっては,経済界や行政府だけでなく未来を担う子供達や地域住民が東北地方の復興と創生,そして将来の日本を担う夢を託して来た。それ故に,このプロジェクトの実現に向けて政策判断の大詰めを迎えて,東北各地は学術会議の最終答申とともに政策判断を下す中央政界や行政府の成り行きを注視している。この2月に仙台市から首都圏に移住して来て感じるのは,日本の未来を託せる国際プロジェクトにもかかわらず,中央にとっては依然認知度が低く冷淡という印象である。

 なぜなのかとその背景を考えてみると,ILCという横文字ではどんなプロジェクトなのか分かり難いのに加えて,対象分野が素粒子に係る基礎科学に関係し現実の世界とは馴染みにくく国民の認知度や関心が低い。また,サイト候補地は堅牢な地盤や建設コスト等から世界的な適地と国際的に認知されても,日本では開発が遅れて来た東北地方であり,政治や国策の中心から離れ全国民的な関心や議論になりにくい。誘致の判断を下す国会議員にとっては選挙の票に結びつきにくく,国の行政機関にとっても優先度が低くなりがちの案件であろう。国政の地元地方選挙を見てきたが,与党野党候補者ともに,また応援に駆け付けた首相や政党幹部もILCの重要性を認めながらも財源を理由に誘致についてはお茶を濁して来た。知り合いだった全国紙の地元記者は,本社に関連記事を送稿してもローカル版には載るが全国版には報道されないことが多いという。

 このプロジェクトは,欧米諸国を中心に日本に建設が期待されている千載一遇の好機と目される日本初の国際科学プロジェクトである。ここで詳細に触れる余裕はないが(注),ILCは宇宙の成り立ちの根源に迫るヒッグス粒子を発見した,スイスに所在するCERN(欧州合同原子核研究所)が運営する国際科学実験設備LHCの後続次世代型設備である。ここでの日本の資金や機材協力,日本人研究者の活躍と世界的な素粒子物理学の研究成果を背景に日本に建設が要請され,サイトは北上山地南部が候補地に選ばれて来た。設備は地下100mに直線型(linear)のトンネルを掘り電子と陽電子の衝突型加速器(collider)で実験を行うもので,近くには国際研究所や関連産業を置く。当初は31〜50㎞のトンネルを想定したが,20㎞から始めるダウンサイジングでも設備だけで10年間に約5,000億円を要する。費用は国際的に分担されるが,この財源確保が最大の課題とされて来た。国の科研費を超える規模であるしこれまでの審議で科研費が減らされることを危惧する学会間の反対があったが,国家100年の計に相当するプロジェクトとして別建てで検討すべきであろう。また,東北地方は巨大な顕微鏡ともいうべき放射光設備の空白地域であったが,最近東北大学青葉山キャンパスに国と地方の財源に加え一口5,000万円の出資で民間企業を募り財源を確保し建設が決まった方式もある。

 多くの国で国家財政がひっ迫し,最近の日本では台風や地震災害の国庫投入も迫られる。しかし,真に必要なモノには財政を投入すべきで,ばらまきやムダは極力避け選択と集中の支出に努め財源確保に知恵を講じて欲しい。そのためには,国がILC誘致の意思を示すのが望ましく,今がその時期と現地は期待している。たまたま日経ビジネス誌8月20日号は,9兆円の事業費に国の財政投融資3兆円が優遇投入されているリニア新幹線計画がコスト高や安全性確保,敷設予定地域住民の反対等の問題に遭遇しているとし,8月30日号では「陸のコンコルド」になりかねない懸念を問題提起している。懸念はさておき,日本国全体では財源がない訳ではなくて,要は国政と行政,学術レベルでの未来志向の判断力が今問われているといえよう。

[注]東北ILC推進協議会やKEK(高エネルギー加速器研究機構)のサイト,文科省有識者会議議事録,河北新報や岩手日報の特集に関連資料。弊稿では,2018年8月17日付のITIフラッシュNo.382「次世代巨大加速器ILCの誘致大詰めに〜科学技術立国と東北創生に向け決断を〜」や2016年9月12日付の世界経済評論IMPACT No.712「ILC理解のバスツアーに参加して〜地域の熱意や子供達の夢に応えるべきだ〜」を参照されたい。

関連記事

山崎恭平

科学技術

日本

最新のコラム