世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.980

資本主義経済の終焉? ポスト資本主義経済?:(その1)

三輪晴治

((株)ベイサンド・ジャパン 代表)

2018.01.01

1 資本主義経済がどうもおかしい

 21世紀に入り世の中は大きく変わってきている。19世紀のイギリスの蒸気機関による第一次産業革命で近代資本主義経済社会が確立し,20世紀のアメリカのマスプロによる第二次産業革命により今日の「高度大衆消費社会」という資本主義の黄金時代が生まれた。ところが21世紀の産業革命であるデジタル・ネットワーク革命では,これまでの産業革命のときとは違い,あまり新しい雇用が創造されず,デフレ気味で,GDPも大きく伸びていなく,そのために,いろいろの層で格差が広がってきている。商品の生産は,機械化・自動化が一段と進み,更にIT,ロボット,デープラーニングなどのAI技術で,人間の作業,判断,制御を不要にしてきている。こうした自動生産システムは,機械が自らの頭脳でもって判断,コントロールするようになり,人間を生産工程の職場からどんどん排除しようとしている。

 そのために世界の国々の経済は,1980年からのアメリカ,日本の経済は,人為的な破壊の影響もあって,16世紀のイタリアの史上最低金利の1.125%からさらに下がり,今やゼロ金利,マイナス金利になり,資本主義とは言えなくなった。これまでに見られなかった「過剰負債経済」になり,国民大衆は,低所得だけではなく,ますます大きくなる借金による利払いで追い詰められ,生活が苦しくなってきている。そして貧困化と所得格差による分裂が世界的に随所で起こっている。「資本主義経済の終焉」のように見える。それとも資本主義が変貌して「ポスト資本主義」になるのだろうか。

2 実際に何が起こっているのか

(2-1) 機械と人間の闘争の激化

 近代資本主義経済社会の経済活動の歴史は,競争の圧力のもとに商品をより安く大量に造るための機械化,自動化の進む歴史であり,人間の仕事を機械に置き換えるプロセスであった。そのために失業が起こり,これを「技術的失業」と呼ぶが,機械化された職場,産業から締め出された労働者が,人間を受け入れる他の新しい産業,職場に移っていったのが今日までの歴史でもあった。資本主義経済は,国民大衆が商品の社会的生産の職場で働き,賃金を得て,その所得で必要な商品を購入して生活するということにより,経済活動のサイクルが成り立つ仕組みである。新しい職場が出てこなければ,失業が拡大し,需要不足になり経済は停滞の道を驀進することになる。今経済のこのサイクルがおかしくなり,深刻な経済の停滞が長く続いている。

 アメリカでは,20世紀の初めに,農業用トラックター,脱穀機の出現により南部の農場から締め出された農民が,ミシガンで新しく生まれた自動車産業,機械産業に移動していった。ところが自動車産業も部品加工では自動化が進み,そこから労働者が締め出されたが,新しい職場としての「ムービング・アセンブリーライン」の単純作業に農業から移ってきた労働者が鈴なりに並んだ。しかしその組み立て作業にも自動化,ロボット化の波が押し寄せると,「肉体労働」の職場は少なくなり,1960年ごろから,人間にとっての最後の島である事務管理,生産管理,セールス,マーケテイング,技術,開発などの「精神労働」に労働者が移されてきた。判断,認識,改良などの精神労働の仕事は機械にはできない「人間の最後の島」と思われていたものが,自動化は留まることを知らず,今や,IT,AIにより人間がその「最後の島」から押し出されようとしているのだ。

 今や花形の銀行も事務処理,融資判断業務の仕事が機械化・自動化し,大量の社員を削減し始めている。人間しかできないと思われてきた小売業務でも無人販売店が出始め,製造業も無人工場があちこちで生まれている。教育までもがネットで行われるようになってきている。

 「1982年から2002年の間に,鉄鋼生産量は7500万トンから1億2000万トンに増加したものの,製鉄業に従事する労働者は28万9000人から7万4000人へと減少した。……1995年から2002年にかけて,世界全体の生産量は3割以上増えたにもかかわらず,グローバル経済で製造業の雇用が2200万人も消失したのだ。アメリカでは自動化により,製造業の雇用が11パーセント減った。中国でさえ,ITとロボット工学によって生産性を向上させつつ,1600万人もの工場労働者を解雇し,より少ない労働者でより多くの製品をより安く生産できるようになった」(『限界費用ゼロ社会』ジェレミー・リフキン)。(続く)

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