世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.919
世界経済評論IMPACT No.919

掛けたつもりが,知らぬ間に,仕掛けられる側に:北朝鮮の立場,逆説的解釈

鷲尾友春

(関西学院大学 フェロー)

2017.09.25

 世界最貧国北朝鮮が,最富裕国米国に,“脅し”を武器に,自己の立場を認めるよう強要する。そんな企画を実施に移している。

 この弱者の恫喝には,覇者米国が容認出来ない,3つの要素が含まれている。それらは,①あろうことか自国への恐喝ゲームとして行われ,②核兵器が素材とされ,③対応しようとする国際社会に一枚岩的団結がないこと,の3つ。

 仕掛けたのは北朝鮮。発端は,本年2月の日米首脳会談の日。北が弾道ミサイルを発射,これにトランプ大統領が「米国は100%日本とともにある」と応じた。

 その後,4月,今度は米国が仕掛け返す。米中首脳会談で,中国主席に,対北問題解決への協力を求める。習主席に,朝鮮半島の非核化が目標,そのための譲歩条件として,①北の体制転換は求めない,②キム政権の崩壊は求めない,③38度線は尊重,④朝鮮半島統一は急がない,の4点を提示した。

 中国は,基本的には,此の米国の方向に同調したと解されるが,事後の展開を見ると,北朝鮮は挑発を一層エスカレートさせた。米軍基地のあるグアムを射程に入れていると示唆(トランプ大統領はグアム知事に,「米国は1000%グアムとともにある」とインフレ的数字で保障した),ICBM開発や核実験を繰り返し,挙句の果て,国連安保理での対北経済制裁強化を招く事態に至り,9月20日には,“トランプ大統領の国連総会での北朝鮮への強烈な警告”も飛び出している。

 マスコミは,国連制裁は抜け穴が多く実効性に問題がある,と指摘するが,米国にとっては,そんなことは周知の上。むしろ,我々が着目したいのは,国連制裁は一旦制定されると,解除や緩和にも,同じく安保理の議決が要る点だろう。中露が解除に向け走っても,米国は拒否権が使える。制定の場合と攻守所を変えるのだ。要は,制裁の首輪は確実に絞まっている。

 こうした構図の中で,推理小説作家風に考えると,一つの可能性に行き当たる。

 上記対北朝鮮交渉4条件の一つ,②キム政権の崩壊は求めない,を米国がその後の進展の無さと,緊張激化の故に,知らぬ間にひっそりとお蔵入りさせたのではないか,という憶測である。

 仮にそうだとすれば,経済的にキム体制を崩壊させる,という主張は長期目標化し,本腰の入ったものとなってくるはず。

 そして,この視点で事態を見直せば,対北金融機関制裁は既に実施済み。中国からの石油輸出にも最低限の歯止めはかかった。北の企業との取引も厳禁。北の出稼ぎ労働者も帰国させる,もしくはこれ以上増やさせない云々。特に,最後の点に関しては,マレーシアは既に実施,直近ではクエートも導入,国連制裁でも,ロシアや中国は,これ以上の労働者受け入れはしない,と誓約している等など,首絞め路線整備が既にかなり進行している。

 この“軍事圧力を強化しつつ,経済を破綻させる”類の措置,何やら,ソ連を崩壊に導いた,1980年代後半の米国レーガン・ブッシュ政権のやり方にも類似しているではないか…。そして,こうした手段への転換の背後には,朝鮮半島の軍事緊張を,むしろ意図的に高め,北にも国防費増大の負荷を強い続けるとともに,同国経済を,これでもかこれでもかと,連続打ちする,そんな基本方針が透けて見える。

 日本の安倍総理は,米国の対北朝鮮対処方針転換と事態の長期化ムードの中,表面的に蔓延する国内の安全保障上の危機感をバネに,トランプ大統領と電話会談を繰り返し,プーチン大統領とも話し合い,韓国の大統領とも会談を実施,国民に指導者としての姿を“見える化”した。総理への急落した支持率が,急回復した所以である。

 そしてまた,安倍総理の「北朝鮮問題は長期化するだろうから,衆議院総選挙実施も今なら可能云々…」の発言が一部マスコミで報じられる。トランプ大統領の国連演説を受けた,安倍総理の対北強硬の国連演説も,当然,こうした流れの中でのこと。

 もちろん,上記はあくまでも推測でしかない。

 しかし,1980年代の米国の対ソ外交・軍事姿勢を,ニューヨークから,それなりに丹念にフォローしていた小生にとって,こうした危機の時期の,米国の指導者や外交当局,軍部の強硬発言や姿勢の基底に,別の意図(ソ連を経済的に疲弊させる)が隠されていた,そんな先例が,どうしても頭から消え去らない。

 仮に,上記の推測が,当たらずといえど遠からず,であったとすれば,キム委員長の今の心境はどのようなものであろうか…。「自分が仕掛けていたと思っていたのが,何時の間にか,自分が仕掛けられる立場に変わり果てていたのだから…」。戦争とは外交の延長,とのクラウゼビッツの言葉を持ち出すまでもなく,トランプ流外交交渉術が機能するかどうか,愈々,佳境に入ってきたことだけは確かだろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article919.html)

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